(英エコノミスト誌 2024年5月25日号)

テヘランで行われたライシ大統領の追悼式に出席したハメネイ師(5月25日、提供:Iranian Supreme Leader'S Office/ZUMA Press/アフロ)

最高指導者の息子が最大の受益者かもしれない。

 イランの最高指導者であるアヤトラ・アリ・ハメネイ師が死者の功績を誉め称える時の表情があれほど冷酷でなかったら、大統領の死は単なる事故によるものだと信じたイラン国民はもっと多かったかもしれない。

 何しろハメネイ師の部下たちでさえ、5月19日のヘリコプター墜落によるイブラヒム・ライシ大統領とホセイン・アミル・アブドラヒアン外相の死に対する形式的な対応と、4年前のガセム・スレイマニ司令官暗殺の後こらえきれずにむせび泣いた様子とを対比していたほどだ。

陰謀論が飛び交ったヘリコプター墜落事故

 救助活動の様子が伝えられると、国民の疑念はさらに強まった。

 国際赤十字赤新月社連盟で最初に対応した職員は、救助隊が徒歩で現場に向かわねばならないことに唖然とした。

 現場への到着が遅れたことも信じられなかった。

 また、多くのイラン国民が不思議に思ったことに、大統領機を護衛していたヘリコプター2機は無事にイラン北部の都市タブリーズに戻ってきた。

 加えて、事故の第一報は霧と「硬着陸」に言及していたが、救助隊によれば大統領機は爆発していた。

 そして、大統領機とは別のヘリコプターで同行していた大統領首席補佐官は、事故当時は好天だったと話している。

 ハメネイ師は、今回の危機があまり大きく取り上げられないようにしたいと思っている。

 高齢であり、誰を後継者にするかで悩んでいる。9000万人近くいるイラン国民は、国を混乱させるショックが数多く、それもますます頻繁に起きていることに疲弊している。

 ハメネイ師はまだ左手で事態を掌握できていることを示すために(右手は1980年代の暗殺未遂事件でマヒした)、すぐさま大統領代行と新しい外相を指名した。

 イラン国内では商店が営業を続けた。通貨リアルは一時急落したものの、その後回復した。

「あれもこれも、世間が普段通りであることを示している」とテヘランのある大学教員は指摘する。