(英エコノミスト誌 2024年6月1日号)
ロシアが国連安全保障理事会をマヒさせようとするなか、中国は後ろで傍観している。
気が滅入るほど重苦しく暴力的なこの時代に、国連安全保障理事会における外交の機能不全を嘆くのは奇妙に思われるかもしれない。
だが、最大限の力を発揮できれば、この会議は世界を無秩序から守る防波堤になる。
常任理事国5カ国――米国、英国、中国、フランス、ロシア――のバランスは、任期2年の非常任理事国10カ国が加わることで保たれている。
大小の危機が発生すると、安保理が決議を採択し、制裁、平和維持ミッション、武器の禁輸といった措置を講じ、最低でも国際的な監視を行うのが長年のパターンになっている。
そうした対応がなければ、専制君主やテロリスト、クーデター首謀者はおとがめなしで済んでしまうかもしれない。
常任理事国ロシアの無責任
その仕組みが今、崩れつつある。
特に、自由民主主義国からはロシアが国連破壊ごっこに興じているとの批判が出ている。
ロシアは以前からずっと安保理で反抗的な態度を取り、自国の利益を追求してきた。今では外交官の間で、安保理の「存在にかかわる」脅威になっていると懸念されているほどだ。
無責任な行動は次々と積み重ねられている。
昨年7月には、シリアの反政府勢力が支配する地域に人道支援物資を運び込む国連の活動に、ロシアが拒否権を行使した。
ロシアが後ろ盾になっているシリア政府の主権を侮蔑する事業だというのがその理由だった。
ロシアはその1カ月後にも、西アフリカのマリについての議決で拒否権を行使し、同国への制裁を終了させた。
国連の監視団は最終報告書のなかで、現地での殺人や犯罪にマリの部隊とロシアの民間軍事会社ワグネル・グループの傭兵が関与していると指摘していた。
今年3月には、北朝鮮の核・弾道ミサイル開発プログラムに対する制裁の遵守を監視してきた(そして、北朝鮮とロシアによる制裁破りの武器取引についても報告していた)安保理の専門家パネルが、ロシアの拒否権により閉鎖に追い込まれている。
確かに、パレスチナ自治区ガザでのイスラエルの行動を非難する決議に拒否権を発動している米国は安保理を損なっているという非難の声は、途上国だけでなく西側の国連加盟国からも数多く上がっている。
ただし、米国は1945年以降の世界秩序のうち都合の良い部分だけを選んで支えることで批判されている。
ロシアはそうではない。
筆者は先日訪れたニューヨークで四大陸の外交官と会い、ロシアはその世界秩序を破壊する決意なのではないかという懸念を聞かされた。
そしてその外交官たちが続けざまに発したのは、安保理でロシアが頼りにしている支持者・中国についての鋭い疑問だった。