(英エコノミスト誌 2024年6月8日号)
衝撃的な結果は、最終的には良い方向に国を変えるだろう。
世界最大の有権者数を誇る選挙が今、民主主義は一般庶民の事情に疎い政治エリートにお灸を据え、権力の集中に歯止めをかけ、国の運命を変えることができることを証明してみせた。
就任して10年になるナレンドラ・モディ首相は、今年の選挙で地滑り的な大勝利を収めると予想されていた。
ところが6月4日、首相の率いるインド人民党(BJP)が議会下院で単独過半数を失ったことが明らかになり、首相はほかの党と連立を組んで統治せざるを得なくなった。
この結果、インド再生を目指すモディ氏のプロジェクトの一部は頓挫する。政治も混乱するだろうし、金融市場はすでにその事態を恐れている。
しかし、この結果はインドを良い方向に変えていくことになりそうだ。
この国が独裁国家に変わっていくリスクが低下し、民主主義の柱の一つとしての立場を強化し、もしモディ氏にその気があるのなら、インドの急速な発展を維持できる改革に向けて新たな道を開くことにもなるからだ。
大番狂わせとなった選挙
猛烈な暑さのなかで繰り広げられるドラマは、選挙結果とともに幕を開ける。
モディ氏のBJPは定員543人の議会下院で最大370議席の獲得を目指していた。2014年や2019年をも上回る過半数だ。
ところが、ふたを開けてみると、獲得議席は240議席にとどまった。
同党はウッタルプラデシュ州などの牙城で地域政党に議席を奪われた。これはカーストに基づく政治の復活の反映であり、恐らくは仕事が見つからないことへの不安の反映でもある。
モディ氏にとって連立相手の政党は、以前はあってもなくてもいい付属品のようなものだったが、今後は権力の座にとどまるためにその連立相手に依存することになる。
連立相手が忠実に動いてくれる保証もない。
今回の選挙結果は単なる番狂わせにとどまらず、インドでの権力の振るい方をめぐるモディ氏のドクトリンに対する拒否反応でもある。
本誌エコノミストが新たに立ち上げたポッドキャスト番組「The Modi Raj(モディ統治の意)」でも解説しているように、同氏は貧しい家庭に生まれ、ヒンズー第一主義を教え込まれ、自分はインドの偉大さを取り戻す運命なのだと確信している非凡な人物だ。
同氏にとって、インドは何世紀にもわたってイスラム王朝や英国の帝国主義者らに抑圧されてきた国であり、社会主義運動によって独立したものの、多様な国民と連邦主義につきものの混沌から逃げられずにいる国だった。
そしてこの10年間におけるモディ氏の答えは、権力を自らの手に集中することだった。
具体的には自分のブランド、ヒンズー至上主義、そしてさらなる繁栄を目指す上昇志向のメッセージを強調した綱領で選挙戦を戦い、決定的な勝利を収めた。
首相になってからは、経済成長率を押し上げてBJPの権力支配を強化する政策を、行政府トップの権限を使って推し進めた。