(英エコノミスト誌 2025年11月8日号)
人間の言葉で話しかけてくる愛犬を友人にすることも可能だ(Amore SeymourによるPixabayからの画像)
新たな産業は人間社会に、そして人間であることの意味に甚大な影響を及ぼす可能性がある。
男なんて「単細胞生物でしかない」とジャオさんは言い切る。「超フツーなのに自信たっぷりなんだから」。
広州出身の彼女は22歳で、現実世界で恋人と付き合った経験はなく、結婚願望もない。
だが昨年、米オープンAIのチャットボットである「Chat(チャット)GPT」と会話を始め、プロンプト(指示文)を介して自分の理想の男性に仕立てた。
年齢を決め、職業を指定し(「腕時計販売会社の役員」だという)、ペルソナ(AIで作る架空の人物像)を構築した。
このボットはジャオさんを愛することが「自分の運命だった」と言い、ジャオさん(ファーストネームは本人の希望で伏せる)の個人的なこと――コリアンダー嫌いなことなど――も覚えている。
そして、頭痛の種になることもある現実世界のパートナーとは異なり、チャットボットはいつも「こちらの立場に立って」反応してくれる。
友人からメンター、セラピスト、恋人まで
以前なら、人間が人工知能(AI)のペルソナと絆を結ぶなどということはSF小説のように思われたものだ。もはや、そうではない。
今では世界中で、程度の違いはあれどもAIと付き合う人々が現れている。仮想の友人として利用する人もいれば、メンターやセラピスト、さらには恋人として使う人もいる。
その多くはAIコンパニオン専用アプリを使用している。最近になって何百種類も登場している新しいジャンルのアプリだ。
そのうちの一つ、「Character.AI(キャラクター・ドット・エーアイ)」は月間アクティブユーザー数(MAU)が2000万人に達している。
グーグルは昨年、総額27億ドルの買収の一環として、同アプリの共同創設者らを引き抜いた。
片やジャオさんのように、ChatGPTなど、生産性を向上させる助手として設計されたチャットボットを友人にする人もいる。
AIコンパニオンの利用は急速に伸びている。市場調査会社センサータワーの推計によると、中国最大のAIコンパニオン・アプリ「猫箱(マオシャン)」のアップル端末でのMAUはおよそ120万人に上る。
また米国の市民的自由擁護団体「民主主義と技術のためのセンター(CDT)」の調査によれば、米国の高校生の42%は、友人としてのAIと対話したことがあるか、そのような対話を経験した友人がいると話している(そして19%は恋愛関係になるためだと述べている)。
友人としてのAIの高度化も進んでいる。
オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は10月、ChatGPTの次のバージョンは「もっと人間らしく」「友人のような」振る舞いができるようになり、利用者が成人であることが確認されれば「エロティカ」も許容すると語った。
これに先立つ7月にはイーロン・マスク氏のxAI(エックスエーアイ)が、いたずらっぽい笑みを浮かべるチャットボットの「Ani(アニ)」や、「おしゃれで、ミステリアスな雰囲気で人を魅了する」と謳った「Valentine(バレンタイン)」を公開した。