(英エコノミスト誌 2025年11月1日号)
ゾーラン・マムダニ氏(10月31日撮影、写真:ロイター/アフロ)
ドナルド・トランプ氏とゾーラン・マムダニ氏の対決が始まろうとしている。
話術に秀でた2人の政治家がその急進的な計画とともに、米国最大の都市に解き放たれようとしている。
11月4日のニューヨーク市長選挙は、富裕層への増税を財源に新たな社会プログラムを立ち上げると公約している左派のゾーラン・マムダニ候補(34)の勝利がほぼ確実だ。
片やドナルド・トランプ大統領(79)はその選挙の後にニューヨークを「更生させる」と述べ、連邦機関からの捜査員の派遣拡大や重要な資金の交付停止などをちらつかせている。
マムダニ氏の提案はとんでもない公共政策を生み出す。
トランプ氏の計画はニューヨーカーに対する露骨な脅しであり、法に対する脅迫にも当たるかもしれない。
同氏は移民の取り締まりの強化について語り、シカゴなど民主党が市長のポストを押さえる都市でテストしてきた攻撃的な戦術を自身の故郷に持ち込む考えを口にしている。
ニューヨークを戦いの舞台かつ犠牲者として、両氏が劇的な衝突を演じることになりそうだ。
米国経済と政治権力の中枢
ニューヨークをめぐるこの戦いは重要な意味を持つ。それも、ニューヨーカーだけの問題にとどまらない。
この都市は米国経済に欠かせない重要なエンジンであり、国内のどの都市よりも多く企業の本社を抱えている。
金融、企業向け専門サービス、メディアの中心地であり、最近ではテクノロジー産業のハブとして成長したり、医学研究が活発に行われたりもしている。
その結果、ニューヨーク都市圏の経済規模は2兆3000億ドルを超え、カナダの国内総生産(GDP)を上回り、米国経済全体に占める割合が約9%に達している。
ニューヨーク市は政治権力の中心でもある。
選挙運動のスタッフは、民主党の強固な地盤であるマンハッタンよりもアリゾナ州マリコパ郡のような激戦郡の投票パターンを気にする。だが、ニューヨークには異なる種類の影響力がある。
この都市の有権者による連邦レベルの選挙運動への献金額は首都ワシントン圏に次いで2番目に多い。
またトランプ氏本人やスティーブ・ウィトコフ特使、ハワード・ラトニック商務長官など、ホワイトハウスのスタッフにこれほど多くのニューヨーカーが含まれるのはフランクリン・D・ルーズベルトの時代以来だ。
民主党の上院トップであるチャック・シューマー、同下院トップのハキーム・ジェフリーズの両議員もニューヨークで選出されている。
そのシューマー氏は、同じニューヨークを地盤とするアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員を筆頭とする新世代から突き上げられている。
ニューヨークはさらに、最も長続きしている米国の2つの理想の象徴でもある。多元主義と機会がそれだ。
ニューヨーク市は移民の数が米国内のどこよりも多く、ほかの住民と比較的穏やかに共存している。
国内の大卒者が最も多く目指す場所でもある。本物の生活はニューヨークで始まると彼らは思っているのだ。