(英エコノミスト誌 2025年10月18日号)
アルゼンチンは先進各国の指導者にとって貴重なケーススタディだ(写真はブエノスアイレス、Monica VolpinによるPixabayからの画像)
どの国の政府も分不相応な財政運営をしている。悲しいかな、逃げ道はインフレになりそうだ。
裕福な国々をふと見渡せば分かるように、今ではほとんどの国で財政が悪化している。
債務が膨れ上がっているフランスでは、ベルサイユ宮殿でのカツラの取り替えを上回るペースで首相が取り替えられている。
セバスチャン・ルコルニュ現首相は10月14日、財政健全化を目的とする年金受給開始年齢引き上げの延期を提案した。
日本では、国に莫大な債務があるにもかかわらず、新首相の座を狙う候補がどちらも大金を使いたがっている。
英国は、社会福祉改革が概ね断念された後、予算に空いた穴を埋めるための増税に直面している。一度限りとされた増税が昨年終わったにもかかわらず、だ。
あらゆるものに影を落としているのが、国内総生産(GDP)比6%という持続不可能な米国の財政赤字だ。
おまけにドナルド・トランプ大統領はさらなる減税でこれを拡大させることまで匂わせている。
先進国で膨れ上がる公的債務
歳出が歳入を大幅に上回る財政運営は果たしていつまで続けられるものなのか。裕福な国々の公的債務残高は、すでにGDP比110%に達している。
新型コロナウイルス感染症が広がる前の時点でもかなり多くなっており、19世紀初めのナポレオン戦争直後のそれに次ぐレベルだった。
当時の英国はその後ほぼ1世紀にわたって緊縮財政を敷き、債務を返済していった。
しかし、本誌エコノミストが今週号の特集で論じているように、今日の政治家は収支を均衡させることにさえ四苦八苦している。
支払利息の増大と防衛費の増額は避けられない。人口の高齢化を背景に、有権者からは手当をもっと支給せよという抗しがたい圧力が加わっている。
増税も同じくらい困難だ。欧州諸国の歳入はすでに高水準で、米国では増税を口にすれば確実に選挙に負ける。
主要7カ国(G7)では、普通参政権の時代になってから主に歳出削減によって債務残高を大幅に減らした国は一つしかない。
カナダが1990年代半ば、テクノクラート(専門知識を持った官僚)の全盛期にその取り組みを開始した。この芸当の再現をほかの国に期待することはできない。