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(英エコノミスト誌 2025年11月1日号)

金融から医療、中古車に至るまで、AIが市場の効率を劇的に向上させている。

 人工知能(AI)の使い方を知っていれば、時間とお金をかなり節約することができる。

 新しい車をリースする時には、まず契約書の写真を撮って「Chat(チャット)GPT」にアップロードしよう。

 水道の蛇口が水漏れしたらどうか。AIならどこに問題があるか分かっていることが多く、業者を呼ぶより安く済む。

 ぐずる赤ちゃんがいる親は今、医師の予約を取って待つ代わりに、チャットボットを使って数秒で答えを出すことができる。

 安くておいしいワインを探しているのなら、ワインリストのPDFファイルを「Claude(クロード)」にかけるのが一番だ。

「情報の優位性」という資本主義の歪み

 こうした事例が積み重なると、より大きなものになる。AIが主流になるにつれ、現代の資本主義における最も頑固な歪みの一つが取り除かれる。

 品物の売り手、サービスの提供業者、そして仲介業者が消費者に対して享受している情報の優位性がそれだ。

 全員がこの天才を意のままに操れるようになれば、不要なものを売りつけられることが減り、それが全員の利益となり、ひいては経済全体の効率を向上させる。

 難解さ、混乱、惰性などから企業が利益を得る「ぼったくり経済」は手強い相手に直面している。

 情報優位性は市場そのものと同じくらい昔から存在している。

 中世のイングランドの食料雑貨商はインチキな秤(はかり)を使って客をだました。パブの主人はビールに塩を混ぜ、常連客の喉が渇くように仕向けた。

 こうした卑劣な行為は迷惑なだけではない。ノーベル賞を受賞した経済学者ジョージ・アカロフ氏は1970年に発表した論文で中古車市場について論じている。

 それによると、中古車がちゃんと走る車なのか、それとも何らかの問題が隠れている「レモン」なのか、買い手が見極めるのは難しい。そのため、買い手は最悪の事態を想定する。

 すると正直な販売業者は、だまそうとしているのではないかと疑われるのを恐れ、中古車の売買そのものに手を出さなくなる。

 かくしてサービスの質が低下する。そしてニーズを満たせる消費者が減っていく。