(英エコノミスト誌 2025年11月15日号)
TSMCの年次運動会に参加した魏哲家CEO(最高経営責任者)とNVIDIAのジェンスン・フアンCEO(11月8日、写真:ロイター/アフロ)
通貨安政策は消費者に負担をもたらし、金融リスクを積み上げている。
台湾の輸出の力強さは羨望の的だ。世界最先端の半導体はすべてここで作られている。
同じくらい驚異的だが、半導体に比べればはるかに知られていないものは高水準の経常黒字だ。これは好調な貿易だけでなく、長らく続く通貨安の結果だ。
通貨安は台湾の輸出主導型の発展を後押ししたが、その目的はかなり前に達成済みで、通貨安政策だけが残っている。
そのため製造業者が甘やかされる一方で、台湾の一般の消費者は経済成長の果実を享受できておらず、金融リスクが積み上がっている。台湾はもう為替管理の手を緩めるべきだ。
莫大な経常黒字と世界一過小評価された通貨
台湾の巨額の経常黒字は何年もかけて作られた。CBCの略称で知られる台湾中央銀行は数十年前から為替レートを割安な水準に保ち、製造業の輸出業者の競争力を押し上げてきた。
通貨の基本的な価値と市場レートとの乖離を明らかにするために本誌エコノミストが算出している国内総生産(GDP)調整後のビッグマック指数によれば、台湾ドルは米ドルに対して55%も過小評価されている。
過小評価の度合いは世界最大だ。
その結果、今世紀に入ってからの台湾のGDP比の経常黒字は、貨物の集散地と産油国を除くベースで世界最大となっている。最近では、人工知能(AI)ブームのために台湾の経常収支不均衡に拍車がかかっている。
10月には財の貿易収支(年率換算値)がGDP比31%という記録的なレベルに達し、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの時期の4倍に拡大した。
また今年の最新データによれば、台湾の年初来の経常黒字は対GDP比で16%となっている。典型的な黒字国である中国のそれはわずか3%だ。
これらの現象の問題は、通貨安が高コストで危険でもある時代遅れの政策になってしまったことだ。
まず、台湾ドル安はかつてのような利益をもたらさなくなっている。
台湾はもう工業化途上の経済ではない。年間の1人当たりGDPは今や日本のそれを上回る。外貨準備高は6000億ドルに達しており、金融危機や中国による海上封鎖からの打撃でも緩和できるほどだ。
そして、台湾の総輸出額の4分の3と名目GDPの半分近くを占める台湾トップの半導体メーカーとコンピューターメーカーは通貨高にもびくともしない。
もし台湾ドルレートが20%上昇切り上げられたら、世界最大の半導体メーカーである台湾積体電路製造(TSMC)の営業利益率は恐らく8ポイント程度縮小するだろうが、それでもまだ米アルファベットや米アップルのそれを上回る。