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(英エコノミスト誌 2025年11月15日号)

不況の不況状態が長引くと増えたゾンビ企業による弊害が蓄積されることになる(SvenKirschによるPixabayからの画像)

絶え間ない成長は経済を太らせ、その動きを鈍くする。

 経済史家の推計によれば、イングランドとその後の英国は西暦1300年から1800年までのほぼ半分で景気後退に陥っていた。その時代の景気は変動が激しく、大不況の後に怒濤の回復が続いたりした。

 資本主義が成熟し、政策立案が改善するにつれて、景気後退の頻度は低下した。19世紀には景気後退期の割合が全体の4分の1にとどまり、20世紀には英国や他の裕福な国々でさらに短くなっていった。

 そして今日、状況はさらに落ち着き、景気後退は絶滅危惧種になっている。

数々の困難を乗り越えて成長続ける世界経済

 世界はここ4年間、金利の上昇から銀行危機、貿易戦争、さらには本物の戦争に至るまで、異例なほど広い範囲で困難に直面してきた。

 ところが、2022年から2024年にかけて世界全体の実質国内総生産(GDP)は平均で年率3%の成長を遂げた。今年も同じく3%の成長をひねり出す見通しだ。

 裕福な国々で構成され、世界全体のGDPの60%程度を占める経済協力開発機構(OECD)における失業率は、歴史的な低水準に近いところで推移している。

 2025年第3四半期には世界の企業の増益率が前年同期比11%となり、ここ3年間で最も高い値をつけている。

 新型コロナウイルス禍のロックダウン(都市封鎖)に起因するマイナス成長を除けば、世界経済は景気後退の同時発生をもう15年以上経験していない(図1参照)。

 米国の労働力人口の3分の1は景気の下降が長引く事態を経験したことがないかもしれない。

図1

 これは良いニュースだ。結局、不況は甚大な人的コストを強いる。ただ、そこには落とし穴がある。

 不況らしい不況がなかなかやって来ない「不況の不況(recession recession)」に世界が陥ると、コストが積み上がり始めるからだ。