敵に塩を送る?トランプ氏の「再選リスク」
出口の見えないウクライナ戦争だが、ここへ来て「NATO(北大西洋条約機構)とロシアの直接対決」が危惧され始めている。
2023年12月、アメリカの著名なシンクタンク「戦争研究所(ISW)」が、「アメリカがウクライナを見捨てれば、ロシア軍のウクライナ全土占領も不可能ではなく、結局アメリカはこの対処に天文学的な軍事費を支払うことになる」と、異例の“警告”を発したことで、世界中がざわついた。
この警告は「風が吹けば桶屋が儲かる」的な理屈で、ウクライナがロシアに占領されれば、ロシアと直接対峙する欧州のNATO諸国支援のため、アメリカは在欧米軍の大幅派兵を迫られる。
そしてこれを静観する権威主義の国々は「米軍に余裕がないからチャンス」とばかりに、中国が台湾に攻め込んだり、ベネズエラがガイアナに侵攻したり、北朝鮮が韓国への軍事的挑発を強めたり、とあちこちで火の手が上がれば、これに対処するためにアメリカはさらに莫大な国防費を強いられる──という論法だ。
現在、アメリカの対ウクライナ援助は滞りがちで、2023年分の支援予算はついに底をついてしまった。軍資金・武器の大半をアメリカに頼っているウクライナにとっては死活問題だ。最前線での弾薬不足も表面化し、皮肉にも侵略を止めようとしないロシアを援護射撃する格好となっている。
アメリカ国内では「ワシントンでのもう1つの戦い」が勃発している。民主党のバイデン政権と、連邦議会下院で多数派の共和党とが角逐し、共和党は「大統領がメキシコ国境の壁構築を再開しなければ、ウクライナの追加援助は認めない」と噛みついた。
結局、2023年中に対ウクライナの追加予算案は可決されず、民主党は2024年早々にも援助を再開しようと共和党の説得工作に必死である。
悩ましいのは、トランプ氏の大統領返り咲きを望む共和党内の一派が、ウクライナへの援助そのものに反対の意志を表明している点だ。2024年は米大統領選の年であり、今後彼らの意見が共和党内で高まることも予想される。
一方、再選を狙うバイデン氏は、ウクライナへの「支援疲れ」やイスラエル・ガザ戦争への対応、バイデン氏自身の高齢・健康問題などが響き、支持率は芳しくないとも伝えられている。
仮にトランプ氏が大統領選で勝利すれば、「米第一主義」を掲げ、ウクライナ戦争への関与を批判しているだけに、本当にウクライナ援助をすべて打ち切るかもしれない。