「化石エネルギー規制策」を覆したいトランプ氏の思惑

 トランプ氏率いる米共和党は、歴史的に石油・天然ガスなど化石エネルギー業界と親密だ。米の有力政治情報メディア「ポリティコ」によれば、トランプ氏は2024年4月、フロリダ州マー・ア・ラゴの別荘に米化石エネルギー業界の幹部らを招いて会合を開き、10億ドル(約1500億円)の寄付を求めたという。

 顔ぶれはエクソン・モービルやシェブロンといった日本でも著名な石油メジャーや、業界の総元締であるアメリカ石油協会(API)、さらにLNG事業世界第2位で、米製LNGの欧州への輸出を一手に引き受ける最大手チェニエール・エナジーなどの重役たちだ。

 米化石エネルギー産業界は業績拡大のチャンスと見て、ここ数年で世界最大のLNG消費市場へと躍進した欧州(大半はEU/欧州連合)に狙いを定め、LNGの売り込み攻勢をかけている。

 翻って国際社会は、トランプ氏がアメリカの軍事、外交、貿易戦略を「ちゃぶ台返し」し、国際協調よりも「アメリカ・ファースト(米第一主義)」に軸足を移すと警戒している。

 エネルギー戦略も同様で、トランプ氏は民主党政権が推進してきた「気候変動対策・再生可能エネルギー重視」に代わり、「化石エネルギー重視」を公言している。米化石エネルギー業界にとっては、追い風どころか“神風”だろう。

 今年7月中旬の共和党大会でもトランプ氏は、「Drill Baby Drill!(掘って掘って、掘りまくれ!)」とほえた。「石油・石炭・天然ガスをどんどん採掘せよ」の意味で、化石エネルギー業界へのアピールも意識しているのは明らか。バイデン政権が強化する化石エネルギー規制策を、大統領返り咲き後は即撤廃するとうそぶく。

 共和党が採択した政策綱領、いわゆる“トランプ公約”では、「雇用確保」を強調。トランプ氏の熱烈支持者が多いラストベルト(五大湖周辺の鉱工業が盛んだった地域)の白人労働者や、米中部~中西部の農業従事者を強烈に意識した内容だ。

 具体的には「インフレ抑制」「製造業復権」を掲げ、この達成のため石油・石炭・天然ガスの大増産・輸出拡大が不可欠と説く。世界屈指の埋蔵量・生産量を誇る米国内の石油・石炭・天然ガスの開発が加速すれば、ガソリン代や電気代、工場の燃料代は大幅に安くなり、物価も下がって雇用創出にもつながる──との三段論法だ。

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