あらがいようのない圧力をかけて部下をつぶす「上司の罪」

 上司が気持ちよく業務遂行できるよう最善を尽くしてきた社員は、上司に気に入られる確率が高まり出世しやすくなります。さらにそれが成功体験となり、自分が上司になると「私と同じように振る舞うのが正解だ」とばかりに今度は同じことを部下に求めがちです。

 しかし、管理職としての経験を積む中で、それが部下をつぶすことにつながりかねないと気づいて修正しながら、過去の自分と部下を比べたり、同じように振る舞うことを唯一の正解だと押しつけるのではなく、部下一人一人の立場に立って寄り添って育成していくマネジメントを身につけていきます。

 翻って、冒頭で紹介した斎藤知事の答弁を見るに、特に新任管理職が陥りがちな過ちがにじみ出ています。

 まず、車止めをどかしていなかった理由は、職員の怠慢だと決めつけたこと。実際には禁止エリアだったからですが、理由を確認することもなく叱責しました。職員側の視点に立てておらず、自分だけに見える範囲に限定された狭い視野です。

 そして、大きな声で強い指摘をしたと証言していることから、頭ごなしで一方的だった様子がうかがえます。車止めをどかさなかっただけで強い指摘につながってしまう背景に垣間見えるのは、事前にどかしておくのが当然、という知事が有する経験的正解との比較です。

 さらに、知事は車止めが置かれていた場所が禁止エリアだったことが判明した後でも、叱責したことについての質問に対して「私の当時の認識としては合理的な指摘だったと考えています」と自らの振る舞いの正当性を主張しました。

 自分の落ち度とは言えないことで頭ごなしに叱責された職員からすると、なぜ怒られたのかも、どうしたら叱責を回避できるのかもわからず、あらがいようのない圧力に恐怖心を抱いても不思議ではありません。

 それなのに合理的な指摘だと主張するのは、部下を威圧し委縮させてしまうかもしれない自身の影響力を把握できていない証拠だと感じます。