管理職になりたての人が陥りやすい“経験的正解”の決めつけ

 知事自身は答弁で、20m歩かされたから怒ったのではなく、円滑な車の侵入をきちんと確保していなかったことを注意したと述べました。「知事が通る時は、禁止エリアなど取り払え!」と特別扱いを迫ったわけでもないようです。

 そうであれば、職員は入り口から20m手前の車止めのところで待機し、「これ以降は進入禁止エリアのため、ご足労ですがここからは徒歩にて入り口まで案内させていただきます」と説明すれば事なきを得た可能性があります。知事も答弁の中で「そのような対応も一つの選択肢だったと思う」と述べています。

 そんな先回りした対応や機転を利かせた対応を求めている側からすると、叱責を受けた職員の対応は怠慢に見えたのではないでしょうか。有能な官僚だったとされる斎藤知事は、自分が職員の立場であれば先回りした対応ができた自信があるのかもしれません。また、職員にそのような一歩先行く対応を求めたこと自体は、決して間違いではないと思います。

 ところが、告発文書にもなっていることから、叱責された職員側はパワハラだと感じたようです。このような場面は、一般企業の職場の中でも良く見られます。特に多いのは、上司が新任管理職の時です。

 管理職になりたての人は、直前まで優秀なプレイヤーだったケースが多く、その感覚が“経験的正解”として体に染みついています。そのため、初めて部下を持つと自分と比較してしまい、欠点ばかりが目につきがちです。そして、「なんでこんなこともできないんだ!」「それじゃダメだ。こうしろ!」などと、部下のふがいなさをイラ立ちながら指摘します。

部下を叱責する上司初めて部下を持った管理職は、部下の欠点ばかりが目につき叱責する傾向が強い(写真:takasu/Shutterstock.com)

 管理職に抜擢されるほど優秀なプレイヤーだった視点からの指摘ですから、大抵の場合間違いではないでしょう。ただ、その指摘が正しいか否かにかかわらず、強圧的な印象を受けると、部下には指摘された内容よりも恐怖心ばかりが植えつけられてしまいます。

 そのため委縮してしまい、また同じ失敗を繰り返しては指摘されるということが何度も続くと、どんどん自信を失ってさらに失敗を繰り返すうちに怒気を増したりしながら指摘が“強く”なっていくという負のスパイラルに陥ります。

 これは、パワハラ発生の典型パターンの一つです。中には、ベテラン管理職になってもこの手のスパイラルから抜け出せないままの人もいます。