1.宇宙と安全保障:戦闘領域になった宇宙

 本項は令和6年度版防衛白書を参考にしている。

 宇宙空間は、国境の概念がないことから、人工衛星(以下、衛星という)を活用すれば、地球上のあらゆる地域の観測や通信、測位などが可能となる。

 このため主要国は、C4ISR(Command, Control, Communication, Computer, Intelligence, Surveillance, Reconnaissance)機能の強化などを目的として、軍事施設などを偵察する画像収集衛星、弾道ミサイルなどの発射を感知する早期警戒衛星、通信を仲介する通信衛星や、武器システムの精度向上などに利用する測位衛星をはじめ、各種衛星の能力向上や打上げに努めている。

 2024年4月時点で約9000基の衛星が運用されており、2022年だけで2368基が打ち上げられた(出典:朝日新聞2024年4月26日)。

 一方、自国の軍事的優位性を確保する観点から、他国の宇宙利用を妨げる能力も重視されている。

 当初、地上から打ち上げたミサイルを衛星に直接体当たりさせる直接上昇方式の兵器が主に開発された。

 2007年1月、中国は、老朽化した自国の衛星を地上から発射したミサイルで破壊する実験を行った。

 このように衛星の破壊をもたらす行為は、大量のスペースデブリを発生させ、国際宇宙ステーションや各国の衛星などの宇宙資産に対するリスクとして懸念されている。

 現在地上から追跡されているスペースデブリは、10センチ以上の物体で約2万個、1センチ以上は50~70万個、1ミリ以上は1億個を超えるとされている(出典:JAXAアクセス2024年8月)。

 その後、ミサイルの直撃により衛星を破壊するのではなく、よりスペースデブリの発生が少ない対衛星兵器(ASAT:Anti Satellite Weapon)が開発された。

 例えば、攻撃対象となる衛星に衛星攻撃衛星(いわゆる「キラー衛星」)を接近させ、アームで捕獲するなどして対象となる衛星の機能を奪う対衛星兵器が開発された。

 このような多様な妨害手段の開発をはじめとする宇宙空間における脅威の増大が指摘される中、宇宙を「戦闘領域」や「作戦領域」と位置づける動きが広がっており、宇宙安全保障は喫緊の課題となっている。