衛星が他国に破壊されても24時間以内に代替衛星を打ち上げる戦術宇宙対応ミッション「VICTUS NOX」により打ち上げられた衛星(2023年9月14日、米宇宙軍のサイトより)

 米中露などの列強は、宇宙でも熾烈な覇権争いを展開している。その争いの一端が最近報道され話題になっている。

 米下院情報特別委員会のマイク・ターナー委員長(共和党)は2月14日「国家安全保障上の深刻な脅威」に関する情報があると警告し、すべての議員が共有すべきであるとの声明を発表した。

 彼は脅威の内容は明らかにしなかったが、ABCテレビは「ロシアが核兵器を宇宙空間に持ち込み、衛星に対し使用する可能性を指摘する機密情報だ」と報じた。

 また、安全保障分野で有名なデービッド・サンガー氏は米ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙で「米国は同盟国に対して、ロシアが今年核兵器を軌道に乗せる可能性を警告した」という記事を書いている。

 この「ロシアの宇宙への兵器配備問題」については、多くの人たちが論じている。

 例えば、宇宙安全保障の専門家であるトッド・ハリソン氏とクレイトン・スウォープ氏は、米外交専門誌ナショナル・インタレスト(The National Interest)に注目すべき論考を発表して、「多くの人が最悪の事態を想定しているが、パニックに陥る必要はない」と結論づけている。

 本稿では、米政府関係者が詳細をほとんど明らかにしないために、不明な点が多い「ロシアの宇宙への兵器配備問題」について、宇宙における覇権争いの観点で現時点での分析結果を紹介する。

原子力衛星は宇宙核兵器ではない

「ロシアの宇宙への兵器配備問題」を考察する際には、原子力衛星と宇宙核兵器を混同すべきではないことを理解する必要がある。

 つまり、「原子力を動力源とする衛星(nuclear-powered satellite)=原子力衛星」は、「宇宙に配備された核兵器(space-based nuclear weapon)=宇宙核兵器」ではないということだ。

 まず、原子力を動力源とする原子力衛星そのものは核兵器ではない。

 原子力衛星は、原子力を動力源とするが、原子炉を搭載したいわゆる原子炉衛星と、放射性同位体(RI、具体的にはプルトニウムなど)を搭載したRI衛星の2種類がある。

 RIは原子炉に比べて出力は小さいが、より長寿命の運転ができる利点をもつ。

 米国は、1960年代前半に両タイプの原子力衛星の開発を進め、原子炉衛星「SNAP-10A」を打ち上げた。

 その後、宇宙における原子力衛星計画は停滞し、宇宙用長時間電力源の主役を太陽電池に譲っている。

 ソビエト連邦は、原子炉衛星「コスモス954号」を1978年9月に打ち上げたが、1979年1月には地球に落下している。

 ロシアは最近、人工衛星用に1000キロワットの原子炉の建設を検討していることは注目すべきことで、原子力衛星を開発している可能性がある。

 次いで、宇宙核兵器であるが、宇宙で核兵器を爆発させて強力な電磁パルス(EMP:electromagnetic pulse)を発生させ衛星を破壊する兵器が考えられる。

 しかし、これは1960年代に開発されていた兵器と同じものであり、ロシアにとって新しい驚くべき兵器ではない。