世界の至る所で紛争が発生し、極めて不安定で不幸な状況が続いている。ウクライナ東部ではウクライナ軍とロシア軍に支援された親ロシア派テロリストとの間に激しい戦闘が生起した。一応の停戦合意がなされたが、今後の展開は予断を許さない。

空爆でも止まらない外国人戦闘員の流入、イスラム国

イスラム国の戦闘員〔AFPBB News

 また、シリアおよびイラクではイスラム国(IS: Islamic State)やアルカイダが、アフリカではボコ・ハラム(ナイジェリアのタリバンと呼ばれるテロ組織)やソマリアのアル・シャバブなどのイスラム過激派集団が活発に活動している。

 特に残忍極まりないイスラム国は、国際社会における大きな脅威となっている。一方、アジアにおいては中国の軍事力を背景とした強圧的な対外姿勢により周辺諸国との領土問題に解決の兆しがない。

 混乱を極める世界情勢の背景は何なのか。米国が世界の警察官としての役割を果たせなくなったのが1つの理由である。なぜ、米国がその影響力を低下させてしまったのか。最大の要因は、米国の対テロ戦争特にイラク戦争開始以降の米国の不適切な対応にある。

 特に当時のジョージ・W・ブッシュ大統領の傲慢さと独善に対するイスラム教徒をはじめとする世界の怒りが背景にある。

 米国の著名な戦略家ブレジンスキー(注1)は、その著書『SECOND CHANCE』(日本訳「ブッシュが壊したアメリカ」)においてブッシュ大統領を手厳しく批判し、「イラク戦争の最も重大な影響は、アメリカのグローバル・リーダーシップが信用を失った点だ。もうアメリカの大義では世界の力を結集できなくなり、アメリカの軍事力では決定的な勝利を収められなくなった。アメリカの行動は同盟を分裂させ、対立相手を結束させ、敵と悪党に塩を送った。混乱に陥れられたイスラム世界は、アメリカに激しい憎悪で応えた。アメリカの政治手腕に対する敬意は先細りとなり、アメリカの指導力は低下の一途をたどっていった」(注2)と指摘している。

 まさにイラク戦争はパンドラの箱を開ける行為だったのだ。米国の影響力は低下する一方で、多くのイスラム過激派が米国に対する怒りや憎悪ゆえにその活動を活発化させ、残忍な活動を中東やアフリカを中心に展開しているのである。

 そして、中国やロシアなどの米国主導の秩序に反対する国々も自国の国益に沿った反米的な活動を活発化させたのである。その結果がロシアによるクリミア編入とウクライナ東部へのロシア軍の侵攻である。世界中の紛争は、イラク戦争あるいは対テロ戦争というパンドラの箱から出てきたのである。

 ISAF(International Security Assistance Force:国際治安支援部隊)を構成する米軍などの各国戦闘部隊は、アフガニスタンでの戦闘任務を終了し、2014年末までにアフガニスタンから撤退する。

 2001年の9・11以来続いてきた13年間に及ぶ米国の対テロ戦争の大きな節目を迎えるに当たり、本稿ではその戦いについて現時点までの総括を実施する。

 結論的に言えば「13年間の対テロ戦争は成功したとは言えない」というのが筆者の評価である。当然ながら、筆者の結論に反対する人もいるであろう。大切なことは、米国の対テロ戦争について活発な議論をし、総括することであり、そうすることにより現在の混沌とした世界情勢に対する解決策を見出すことである。

1 世界の混乱は米国の対テロ戦争特にイラク戦争に起因する

東西冷戦終結以降の米国に対する過大評価とその現実

 冷戦の真っただ中の1978年に自衛隊に入隊した私にとって、冷戦終結はにわかには信じられない画期的な出来事であった。冷戦の終結そして何よりもソ連崩壊は全世界に大きな影響を与え、それが現在の様々な紛争の遠因となっている。

 ブレジンスキーが指摘するように、「ソ連崩壊の1991年以降、世界の人々は米国が無敵であると思い込み、米国は自らの権勢がどこまでも広がると夢想していたが、イラク戦争後の占領政策が失敗したことにより、これからの思い込みと夢想はもろくも崩れ去った」(注3)のである。

 イラク戦争やアフガニスタン戦争で米国が苦戦を強いられる以前は、米国を「唯一のスーパーパワー」と表現する者が多かった。しかし、米国が推し進めたいわゆる「テロとの戦い」が示した現実は、米国は大国ではあるが、すべてを単独で解決できるスーパーパワーではなかったという事実であった。

 世界の安全保障を考える際には、EU、日本、中国、ロシア、UNの協力が欠かせないことを、米国はテロとの戦いを通じて認識することになるのである。

9・11NY同時多発テロと世界から支持された当初のアフガン侵攻作戦

 9・11NY同時多発テロは米国のみならず世界各国に大きな衝撃を与えた。民航機をハイジャックし、世界貿易センタービルとペンタゴンに対する自爆テロを敢行した大胆な行為にブッシュ政権も米国民も驚愕し、その驚愕がテロリストへの怒りへと転換していった。

 そして、「アフガニスタンのタリバン政権が9・11の主犯たちをかくまっている以上、米国にはタリバンを抹殺する必要性と権利がある」という米国の主張は、世界のほぼ全域から支持された。

 米英軍を中心とした有志連合は、10月7日、「テロリズムに対するグローバルな戦争」(Global War on Terrorism)としてアフガニスタンでの「不朽の自由作戦」(Operation Enduring Freedom-Afghanistan , OEF-A)を開始したが、この時点では米国の行動に対する世界的な支持があった。

 2003年まで、世界各国は当然のように、米国大統領の言葉に信頼を寄せ、彼が事実と断言したことは、そのまま事実として受け取られたのだ。

 世紀のテロ行為に衝撃を受けた米国民は、ブッシュ大統領のもとで結束を強めていった。「ブッシュにとって9・11とは、一人の人間として天啓に触れ、特別な使命を授けられた機会であった。この思い込みは、ブッシュに傲慢と紙一重の自己過信を与えた」(注4)のだ。ブッシュ大統領は9・11を機に、同盟国の意向にかまわず、自らの思うがまま行動する一国行動主義に陥っていくことになる。