イスラエルとハマスの対立はなぜ収束しないのか。ロシアのプーチン大統領はなぜウクライナを侵攻し続けるのか──。最新の世界情勢を読み解くには、地政学、宗教、歴史、民族、経済といった「公式」に、政党という「変数」を加えることが必要だ。
「政党を見るという“ミクロの目”を持つと、世界を見るという“マクロの目”も備えることができ、その国や地域の実情が寄り立体的に見える」と語る元外交官で著述家の山中俊之氏が語るアメリカの政党について。
※この記事は、『教養としての世界の政党』(かんき出版)より「アメリカ」部分を一部抜粋・編集したものです。
個人主義でアマチュア志向の米二大政党
4年に一度の米国大統領選は日本でも大きなニュースとなり、なかでも注目されるのは、民主党・共和党それぞれの代表候補によるテレビ討論です。
1960年に行われたケネディvs.ニクソンが、本格的にテレビ放映された討論としては第一回。国民がテレビの向こうで見守るなか各候補者が登場しますが、うつむきながら政策が書かれた原稿を読み上げるのではありません。
経済政策や環境問題などのテーマについて自由討論したり、司会者からいきなり難しい話題を振られたり、会場に観客を入れて質問を募ったり。いくつかのパターンに対応するため、想定通りにはいかないのです。
不意に痛いところを突かれて感情的になってしまったら?
「論破!」とばかりに、圧倒的に議論で打ち負かしたら?
思わず心を揺さぶる巧みさで、エピソードを絡めて政策を述べたら?
政策や理念だけではなく、論理的思考力や対応力、コミュニケーション能力、人間性まで視聴者に丸見えですから、投票への影響は大きい。長い選挙活動で積み重ねてきたものがこのテレビ討論でひっくり返ることもあるくらいで、だからこそ政党も候補者も必死です。
2024年6月のバイデンvs.トランプのテレビ討論では、バイデン氏が言葉に詰まるなど大きな不安を露呈しました。ニューヨーク・タイムズが同氏の大統領選撤退を提言するなど、大きな論争を巻き起こしました。
私は「米国の選挙は、人気投票制度だ」と感じることがしばしばあります。政治経験がなくても「人気・知名度・お金」があり、言葉巧みにディベートを乗り切れば政治経験のない政治素人でも当選しうるためです。2016年のトランプ氏の当選がまさに証拠です。ただしその背後に、絶大な政党の影響力があるのも事実です。