テレビ討論会で醜態をさらしたバイデン大統領(写真:REX/アフロ)テレビ討論会で醜態をさらしたバイデン大統領(写真:REX/アフロ)
  • 先日、実施されたフランス総選挙では、主に右派政党やその支持者を中心に、選挙活動でのAI生成画像の使用が確認された。
  • EUの包括的AI規制法であるAI法(AI Act)では、AIシステムが生成したコンテンツについて、そのことをユーザーに明示しなければならないと定めているが、必ずしも明示はなかった。
  • 米大統領選のテレビ討論会で醜態をさらしたバイデン大統領のイメージ戦略のためにAIを使うべきとの指摘がリベラル陣営から出ているところを見るに、選挙における生成AIの活用は常態化しそうな勢いだ。

(小林 啓倫:経営コンサルタント)

「彼らのいないヨーロッパを!」

 フランスで6月30日と7月7日の2回にわけて総選挙が行われ、左派連合が躍進。最大勢力を形成することとなった。事前に予測されていたのは極右政党の勝利だったため、この結果は驚きを持って受け止められている。また、マクロン大統領率いる与党連合は2位に終わり、彼の求心力低下は避けられないと見られている。

 今年は世界の主要国で大きな選挙が行われる年で、良い意味でも悪い意味でも、生成AIが様々な形で利用されることが予想されている。フランス総選挙も例外ではなく、専門家による監視活動が行われていた。その結果が最近発表されたのだが、果たしてどのような状況が生まれていたのだろうか。

 この調査を行ったのは、欧州で活動するAI Forensicsという非営利団体だ。彼らは独自の監視ツールを開発して、アルゴリズムの不正利用に関する調査・分析活動を進めると共に、結果をまとめてジャーナリストや政策立案者に提供している。その最新の取り組みが、今回のフランス総選挙を追ったレポートというわけだ。

人工選挙:2024年フランス選挙の政治キャンペーンにおける生成AIイメージの利用を明らかにする」と題されたこのレポートによれば、AI Forensicsは2024年5月1日から調査を開始し、38のフランスの政党や連合を対象として、彼らが様々なソーシャルメディア・プラットフォーム(Facebook、Instagram、X、TikTok、YouTube、LinkedIn)および政党自体のチャンネル(ウェブサイト、ソーシャルメディアの公式アカウント等)で行っている活動について、データを収集した。選挙直前の6月28日に収集を停止し、得られたデータを分析したとしている。

 その結果、AI生成画像の使用が51件確認されたそうだ。

 AIが生成した画像を使っていたのは、主に国民連合(RN:Rassemblement National)、Reconquête、Les Patriotesなど、フランスの右派政党だった。また、そこで発信されていたのも、彼らが主張する反EUや反移民のメッセージであったという。

 たとえば、国民連合は、反移民を掲げた「L'Europe Sans Eux!(彼らのいないヨーロッパを!)」キャンペーンのために、独自の画像をAIで生成。インターネット上で拡散させていた。

国民連合がAIで生成したとされる画像。中央にはウルズラ・フォン・デア・ライエン(EU委員長)とエマニュエル・マクロン(フランス大統領)が掲載され、「STOP à l'immigration massive」(大量移民を止めよう)や「STOP à la submersion migratoire」(移民の氾濫を止めよう)などのメッセージが掲げられている。(上記レポートから抜粋)国民連合がAIで生成したとされる画像。中央にはウルズラ・フォン・デア・ライエン(EU委員長)とエマニュエル・マクロン(フランス大統領)が掲載され、「STOP à l'immigration massive」(大量移民を止めよう)や「STOP à la submersion migratoire」(移民の氾濫を止めよう)などのメッセージが掲げられている(上記レポートから抜粋)