2024年1月に実写映画にもなった人気漫画「ゴールデンカムイ」などを通じて、近ごろアイヌ民族への関心が高まっています。ところが、伝統あるアイヌ文化の振興を目指す動きが目立つ一方、先住民としての権利保障は十分に進んでいません。川でサケを獲る権利をめぐっては、先ごろ、裁判所が認めない判決を出しました。少数民族の権利を守る動きは世界で定着していますが、アイヌ民族のケースはどうなっているのでしょうか。専門記者グループのフロントラインプレスがやさしく解説します。
(西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス)
「地元の川でサケ漁」求めるアイヌ先住権訴訟
4月18日、札幌地裁で「アイヌ先住権訴訟」の判決が言い渡されました。
漁業権を持たない人が川でサケ漁を行うことは水産資源保護法や北海道漁業調整規則で禁止されていますが、北海道東部のアイヌ団体は、地元の川でサケを獲ることは先住権によってアイヌに認められるものだと主張していました。
そのため2020年、国や道を相手取り、浦幌十勝川の河口付近でのサケ漁は法律で規制されないことを認めてほしいとして訴えを起こしていました。「先住民の権利」の確認を求める訴訟は全国で初めてのことです。
自然の恵みを大切にするアイヌ民族は、サケを「カムイチェプ(神の魚)」と呼び、伝統儀式に則って捕獲していました。裁判の中でも「サケを獲る権利は数百年以上前からアイヌの伝統や慣習によって確立された先住権。国際的にも固有の権利とされている」などと主張していました。
4年に及ぶ審理の末、札幌地裁は原告の訴えを退けました。判決は、アイヌ民族に固有の文化を享有する「文化享有権」があることは認めています。実際、北海道も伝統的儀式のために少量のサケを捕獲することは特別に認めてきました。つまり、文化を守るためのサケ漁はこれまでも許容されてきたのです。
しかし、生業としてのサケ漁となると話は別だ、というのが裁判所の考えです。河川は公共物であり、特定の集団が排他的に支配することは許されないという立場を示したうえで、アイヌ民族にだけ漁業権を認める法的な根拠はないとの判決を下したのです。
判決の後、原告側は「経済活動を含めて『文化』とする国際的な理解に反するものだ」と批判し、控訴する方針を示しました。今では少数民族の言語や文化を固有の権利として法制度を整えて擁護する国は少なくありません。原告側のコメントは、それを念頭に置いてのものでした。