現代でも消えていないアイヌ差別
アイヌ民族については、その差別を忘れるわけにはいきません。同化政策が進むなか、社会では独自の文化と風習を持つアイヌの人々を見下す風潮が広がりました。学校では、アイヌ家庭の子が激しい暴力を受けることも日常的だったと言います。
実際、安倍晋三政権下の2019年に閣議決定された「アイヌ施策推進の基本方針」においては、「多数のアイヌの人々が、法的には等しく国民でありながらも差別され、貧窮を余儀なくされたという歴史的事実を、我々は厳粛に受け止めなければならない」と記されています。
また、2022年に公表された内閣府の「アイヌに対する理解度の世論調査」によると、アイヌ民族に対する差別や偏見が「あると思う」は21.3%。そのうち、約6割は「アイヌの人々が差別を受けているという話を聞いたことがある」と回答しています。現在においても、アイヌに対する差別や偏見は消えていないのです。
長年にわたるこの社会問題を打開しようと、政府と国会は1997年に北海道旧土人保護法を廃止し、代わりにアイヌ文化振興法を制定しました。この法律は、アイヌ民族の誇りの源泉である伝統と文化を守るために知識の普及と啓発を目的としたものです。
当時、先住民の権利を守ろうという動きは、世界各国でも強まっていました。そうした動きに後押しされ、国連は2007年に「先住民族の権利に関する宣言」を採択。先住民族が植民地化によって土地や資源を奪われて苦しんできたことを踏まえ、差別からの自由、政治的自決権、国政への参加、強制移住の禁止などを盛り込んだのです。日本政府もこの宣言採択に賛成票を投じ、翌2008年には国会がアイヌを先住民族と認める決議を全会一致で可決しました。
政府と国会は2019年、新たにアイヌ施策推進法を制定しました。この法律では、アイヌ民族は先住民族であると明確に法的に位置付け、民族としての誇りを持って生活することができる共生社会を目指す施策を推進することが明記されました。
日本にはアイヌ民族は日本人と同化しており、もはや民族として存在しないという議論もあるようです。しかし、少なくとも国が先住民族と認めて法を整備している以上、「アイヌ民族はいない」という言説は説得力に乏しいと言わざるを得ません。