11月に実施される米大統領選で移民問題が大きな争点になってきました。民主党現職のバイデン大統領の移民政策に対して批判が広まり、共和党前職のトランプ氏が攻撃姿勢を強めているのです。メキシコと国境を接する南部では、移民を厳しく排除する州法をめぐって国と州が裁判で争う事態も生じています。アメリカという国の根幹に関わる移民問題。いま、何が焦点になっているのでしょうか。やさしく解説します。
(西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス)
繰り返される「受け入れ」と「制限」
米国はそもそも移民がつくった国です。
15世紀末にコロンブスによって“発見”されたアメリカ大陸はその後、欧州各国から多くの移民が流入するようになります。17世紀になると、移民は本格化。タバコや綿花など農作物の栽培を進めたり、宗教上の迫害から逃れたりするために、多くの人々が新天地を目指して移住し、植民地を形成しました。
植民地の住民は課税などをめぐる本国の圧政に抵抗し、激しい戦争の末、1776年に独立しました。それがアメリカ合衆国です。
建国当時の指導者たちは、米国を欧州から逃れてくる移民の「避難所」と位置付けて、移民を積極的に受け入れる政策を取りました。それが経済をはじめ国の発展につながると考えたのです。移民の中にはアフリカから奴隷として連れてこられた人々や、アヘン戦争の混乱から逃れた中国人なども含まれます。
合衆国憲法の修正第14条は「合衆国に生まれ、または帰化して国の管轄に服する者を合衆国の国民とみなす」とし、「いかなる州もその生命、自由、財産を奪ってはならない」と規定しています。これに基づいて連邦や州レベルで移民の受け入れや帰化の手続きを定める法が整備されています。
第2次世界大戦後は、朝鮮戦争(1950〜1953年)やベトナム戦争(1964〜1975年)など米国が当事者となった戦争によって故国を脱出した多くの人々も、難民として米国に渡りました。
その後は、豊かな生活を求めて陸続きの中南米からの移民も増えています。2000年時点の国勢調査では、ヒスパニック系住民がアフリカ系住民を追い抜き、米社会のマイノリティー(少数派)の中で最大勢力となりました。
建国時に250万人だった米国の人口は、現在3億3000万人に増えました。その最大の要因が移民なのです。ただ、移民を受け入れる寛容な姿勢が基本にあるとはいえ、移民が急に増えた場合には制限も必要になります。
実際、米国はこれまでも受け入れと制限を繰り返してきました。例えば、2001年の米中枢同時テロを受けて、共和党のブッシュ(子)政権はテロ防止の意味もこめて国境管理を強化しましたが、続く民主党のオバマ政権は、若い不法移民を救済するなどの政策も導入しました。