「大谷2世」の呼び声も高い中央大学の西館勇陽投手(スポーツニッポン新聞社/時事通信フォト)

注目のプロ野球ドラフト会議(10月26日)が目前に迫っている。今年の目玉は、空前のタレント揃いと評価の高い大学生投手たち。“令和の怪物”佐々木朗希(千葉ロッテ)というトップランナーを先頭に戴くこの大学4年生世代で、高校時代にはまだ第2走者に位置していた彼らは、何をきっかけに覚醒し、どんな道のりで今のポジションに浮上してきたのか。3人のドラフト候補のストーリーを追う。1人目は、1位での指名重複が予想される中央大学の西館勇陽投手だ。(敬称略)

(矢崎 良一:フリージャーナリスト)

【注目の大学生投手を追う】
(1)ドラフト1位指名予想、「大谷2世」西館勇陽投手の球質は「計測不能」〜花巻東出身の中央大生、「令和の怪物」との再会へ闘志
(2)ドラフトのスカウトを悩ませる村田賢一投手、最速追わない「制球のバケモノ」〜「個性」勝負の明治大生、球速至上主義を「見返したい」
(3)ドラフト中日1位指名、「もっとやれる」亜細亜大・草加勝投手が誓った下剋上〜創志学園のライバル、西純矢と「投げ合ってみたい」

 西館勇陽には、最速155キロという数字上の球速だけでなく、「今年の大学生の中で一番“質の良い球”を投げる投手」という評価が聞こえてくる。だが、それをデータ的に実証することはなかなか難しいという。こんな興味深いエピソードを耳にした。

 投手の「球質」研究のスペシャリストで、『球速の正体』(東洋館出版)などの著書がある林卓史氏(朝日大学教授)は、以前、中大の清水達也監督から依頼を受け、中大の投手たちの球質測定を行ったことがある。近年野球界に普及している「ラプソード」という、投手の球速だけでなくボールの回転数や回転軸、変化量、打者なら打球速度や角度といった、投球や打球の“質”を測定する計測機器がある。

 このラプソードをブルペンでマウンドの数メートル手前に設置し測定を行う。すると、西館の時だけ機器に異変が起こった。他の投手は3~4球も投げれば測定が済むのに、西館だけは何十球投げてもディスプレーに計測数値が出てこない。林氏は仕方なく測定を断念したという。

 機器の故障ではない。これには西館の独特な投球フォームが起因しているようだ。

 一般的に投手は実戦で走者を背負った時、盗塁への対策として、投球動作をコンパクトにして素早く投球する「クイックモーション」を用いることが多い。西館はある時期から、すべての投球をクイックモーションで行うようになっている。「大学2年の秋のシーズンが終わった頃ですね」と、西館はそのきっかけを話してくれた。

「それまでずっと足を上げる普通のフォームで投げていたのですが、自分の感覚ではクイックのほうがしっくり来る。チームのトレーナーさんとそんな話をしていたら、『だったらもう全部クイックで投げるようにして、その中で出力を上げていけばいいんじゃないか』とアドバイスをもらって、そこから冬場、ずっとクイックの練習をしていたんです」

 クイックモーションにすることで、何を変えたかったのか?