東都は1部と2部の入れ替えが激しく、「戦国東都」の異名を取った(写真提供・東都大学野球連盟)

 財政危機に直面していた東都大学野球連盟が、勝負をかけて仕掛けた地方都市での公式戦開催。その成功の背景には、各チームの監督たちの意識改革があった。浮き彫りになる「野球の危機」の本質と、大学スポーツの現状。これまでの野球界の常識を取っ払い、次々に斬新な企画を打ち出す東都が今後、目指すものとは?

※2回目「エイジェック、JIT、ニトリ、スポンサー企業が東都リーグに期待したこと」から読む

(矢崎 良一:フリージャーナリスト)

 9月最初の週末、福島県に3日間で2万5000人の観客を動員した東都リーグ開幕戦。実は当初、まったく別のプランが考えられていた。

 2021年は東日本大震災から10年目という節目の年になる。スポンサー企業を通じて、「被災地である福島県で震災復興記念イベントを何かできないだろうか」という打診を受けていた。

 そこで東都選抜チーム対楽天イーグルス二軍の記念試合が検討されていたのだが、コロナ禍により中止となる。プランを練り直していく中で、「それなら真剣勝負の公式戦を」ということで、春の大分県に続く公式戦開催が決まったという。

 もともと東京六大学や東都には首都圏だけでなく全国から選手が集まってくる。地方の高校出身選手の割合が7割以上。だからこそ選手層の厚い、強いチームになる。しかし近年は、以前のように全国大会で六大学や東都の代表チームが勝てなくなっている。地方リーグの代表に敗れてしまうのだ。

 地方のレベルが上がっていることは間違いない。それは何が要因かと考えていくと、以前のように地方の選手がみんなして東京の大学を目指すような時代ではなくなっていることが挙げられる。

 それに伴い、東都の知名度も下がってきているという危機感がある。「もう一度、東京に来る選手を増やすために、東都の野球をピーアールしたい」という大きなテーマがあった。

 また、小中学生の野球人口の減少という問題に加え、最近は高校まで野球をやってきても、大学進学を機に辞めてしまう者が相当数いるという。

 高校生以下の野球部員に、まず大学の野球を知ってもらい、「こういうところでやってみたい」という憧れを持ってもらいたい。それが野球人口減少への歯止めになるという考えもあった。

 もちろん地方で開催することで観客動員も期待できる。財政面でも大きなカンフル剤になると目論んでいた。実際に大分では3日間で3万、福島で2万5000と、通常の神宮開催では困難と思える観客数を動員した。高校生以下は無料とはいえ、それでも期待以上の入場料収入となった。

 そして、大分も福島もシーズンの開幕節で、東都らしい1点を争う好試合が続いた。観客席には、フェンスを越えるホームランや150kmの速球を初めて見るような子供たちも多く、そのたびに球場はどよめきがあがっていた。

 試合前のノックやボール回しにも各大学特有のスタイルがあり、キビキビとした選手の動きを見て帰った小中学生が、翌日の練習で「俺たちも東都みたいにやろうぜ」と言い合っているという話を、後日、関係者から聞かされたという。

「大学野球」の面白さを、植えつけることができたのは確かなようだ。

福島の開幕戦では、地元の野球少年たちも招待された(写真提供・東都大学野球連盟)