「感情」が重視されるネット記事の特性とは?(写真:garagestock/Shutterstock.com)

 記者歴16年、デスク9年のベテラン新聞記者がぶつかったデジタルという壁。「何かの間違いではないか」と目を疑うほど、ネットで記事が読まれない現実に直面し、文章の書き方をゼロから見直していく。Z世代へのフィールドワークなどを通して分かったのは、デジタルは「感情」の世界であること。ゆえに、アナログの紙面とはまったく異なる書き方が求められることだった──。

 共同通信社が配信するウェブ「47NEWS」でオンライン記事を作成し、これまで300万以上のPV(ページビュー)を叩き出してきた斉藤友彦氏。『新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと』(集英社新書)で、デジタル時代の文章術を指南するとともに、オールドメディアと言われる新聞の厳しい未来を考察した。文章の変化は、社会の変化の表れでもある。なぜ「共感」がこれほど求められるようになったのか。斉藤氏に話を聞いた。

『新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと』(斉藤友彦著/集英社新書)

「Yahoo!ニュースもYouTubeも見ない」Z世代

──斉藤さんは2021年に共同通信社の「デジタルコンテンツ部」に配属され、きちんと取材をした良質な記事が、ネットでまったく読まれないという事態にショックを受けます。PVがとれているのは取材ゼロの「こたつ記事」ばかり……。こうした状況にむなしさを感じながらも、斉藤さんは静かに立ち向かっていく。文章術の指南本であると同時に、新しいフィールドで自分をアップデートしていくための奮闘記としても読みました。デジタル部署への異動は斉藤さんにとってどのようなものでしたか?

斉藤友彦氏(以下敬称略) 異動するずっと前からデジタル向けに記事を出す仕事をやりたいと思っていたんです。紙だけやっていても未来はないと思っていたので、デジタルをやらなければと。遅まきながら共同通信にそういった部署ができたので、希望して移りました。

 ところが、丹念に取材した良い記事が、ネットでなかなか読まれない。つまりPVがとれない。対してYahoo!ニュースでランキング上位の記事を見ると、「これってニュースなの?」という記事だったりするので、愕然としました。

──そこからさまざまな試行錯誤を始めますが、その一つが、Z世代をはじめとする幅広い年代へのリサーチ。記事を読んでもらって感想を聞くという地道な活動を始めます。若い世代の生の声は容赦なく、それだけに貴重です。

斉藤 たまたま別の業務で、Z世代からニュースについての意見や感想を聞き取る仕事をしていたのです。それで、よく行く飲み屋やカフェのマスターに紹介してもらって、記事についてもヒアリングを始めました。

 そうしたら驚きの連続で……。そもそも「忙しいのに、なぜニュースを読まないといけないのか」とか、「Yahoo!ニュースもYouTubeも見ない」と言われる。その後、さらに幅広い年齢層の人にも話を聞くようになったのですが、インタビューするときは必ず、スマホで最もよく使うアプリを尋ねるようにしています。年齢層がきれいに表れるんですね。若い人はTikTokやインスタグラムが主流で、動画も短尺なものへと移っていることがよく分かります。