江戸幕府を開くのに『吾妻鏡』を熟読した

 そのように書物から得た知識を実践しながら、天下人となった家康だったが、「関ヶ原の戦い」に勝利したことで、すぐさま政権を手中にしたわけではない。

 というのも、家康をはじめすべての大名は、豊臣秀吉と主従関係を結び、秀吉の家臣となっており、秀吉の死後は、息子の秀頼がその座を継いでいる。「天下分け目の大決戦」と呼ばれるがゆえに誤解されがちだが、関ヶ原の戦いは「徳川軍」と「豊臣軍」の決戦ではなく、豊臣政権内の主導権争いに過ぎない。石田三成に勝利した家康とて、秀頼の存在はまだまだ無視できなかったのである。

 家康は征夷大将軍に就くと同時に、秀頼の朝廷官職を大納言から内大臣へと昇進させるなどの配慮をしながら、その一方で少しずつ豊臣家の権勢をそいでいった。自身の息子である秀忠に早々と将軍を譲ったのも、「将軍家は徳川家の世襲である」ことを世に示すためだった。

 そうして家康は慎重に江戸幕府の政権を盤石なものにしていくが、そんなプロセスのなかで、家康が熟読したのが『吾妻鏡』だった。

『吾妻鏡』は、鎌倉幕府による準公式記録とされる歴史書で、幕府の中枢にいる複数名によって編纂された。源頼朝が挙兵してから、6代将軍・宗尊親王までの6代の将軍記となっている。

 もちろん、頼朝がどのように幕府を作ったかも書かれている。記述に正確性が欠ける点は見られるものの、武士による歴史の体系的な記録はこれが初めてであり、家康は自身が江戸幕府を開くにあたり大いに参考にしたようだ。

 2022年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の最終回では、異例の演出が話題となった。

 次年度の大河ドラマ『どうする家康』の主人公・松本潤演じる徳川家康が、サプライズで登場したのだ。鎌倉時代から江戸時代へとつなげたのが歴史書の『吾妻鏡』であり、ドラマでは寝転んで本を読む若き家康について、こんなナレーションで解説された。

「熱心に『吾妻鏡』を読んでいるこの男は、のちの征夷大将軍、徳川家康。彼もまた、坂東に幕府を開くことになる。家康は『吾妻鏡』の愛読者であった」