西周が遺した不滅の遺産

 西周の生涯は、津和野の一藩士から、日本の近代化を思想面からリードする国家的指導者へと成長していった、知の巨人の軌跡であった。彼の功績は、以下の三つの点に集約できる。

1. 実証的・合理的精神の導入

 藩学の朱子学から実証的な徂徠学へ、そして西洋の科学的精神へと、観念論から合理主義への知的パラダイムシフトを日本で体現した。

2. 近代社会科学の体系的紹介

 オランダ留学を通じて、法学・政治学・経済学といった近代国家運営の基本となる社会科学を日本に体系的に導入した。

3. 近代的思考を可能にする言語の創造

 西洋の抽象概念を翻訳するための和製漢語を数多く創造し、日本、ひいては東アジア全体の近代化に不可欠な知的インフラを構築した。

 我々が現代社会で当たり前のように用いている「哲学」「科学」「理性」「概念」「権利」といった言葉の多くは、西周の知的格闘の産物である。西の遺産は、博物館の陳列ケースに収まる過去の遺物ではない。それは、今日の我々の思考様式そのものの内に、今なお脈々と生き続けているのだ。