安易な「バラマキ策」は国民のさらなる失望を招くだけ
一連の動きに林官房長官は11日「新たな給付金や減税を検討している事実はない」と打ち消しに必死だった。財務省とのパイプが太く減税に否定的な森山裕幹事長も同じ日に「社会保障のどこを国民に我慢してもらうのか」とけん制した。

物価高やトランプ関税への対策として永田町で浮上しているのは「給付」よりも「減税」が主流となっている。それはそうだろう。過去の給付金の実施例をみても財源コストや事務コストが膨れ上がった割には、目に見えるような経済効果は見られなかったからだ。
例えば、コロナ禍におけるさまざまな給付金。子育て世帯への臨時特別給付、持続化給付金、特別定額給付金など10事業・総額約28兆円が実施されたが、これに伴い政府は6756億円もの巨額の事務費を計上した。家計への給付金は多くは貯蓄に回ったとの指摘があり、消費活性化に結び付いたとの見方は少ない。さらに事業者向けの給付金では不正受給が相次ぎ、24億5996万円(2411社)の不正が明らかになったのだ。
岸田政権で実施された複雑な仕組みの定額減税(1人当たり4万円の減税 所得税非課税世帯は1世帯10万円給付。子ども1人当たり5万円加算など)は、減税と給付で総額5.5兆円規模の政策コストがかかった。減税といっても1回限りなので、実質は給付金と変わらない。財源は実質国債発行頼み。これといった効果もなく、将来にツケを回しただけである。
与党内には「給付金は選挙目当てが露骨すぎる。しかも貯蓄に回ったりして効果も期待できない。岸田政権の時も政権浮揚にもつながらず、総裁選出馬を断念した」と給付金にウンザリというムードもある。ある経済ジャーナリストは、こう指摘する。
「今回、国民1人当たり5万円を給付するとなれば事業規模は6兆円超となります。これは文部科学省の年間予算5兆5094億円(令和7年度)を上回る規模です。それだけの額をばらまくには数千億円規模の事務コストがかかる可能性がある。それでいて、これまでの激しい物価高騰分の穴埋めになるのかどうか。
恐ろしいのは国際情勢、エネルギー情勢、食料争奪戦などで今後も物価高騰が収まる気配がないこと。さらに関税戦争で国内景気が冷え込み、スタグフレーションの恐れも懸念されています。一過性の給付金では効果らしい効果は期待できないでしょう。
それでも減税を認めない財務省や自民党内の税調関係者を敵に回すことができず、石破政権が消費税減税に見向きもせず、安易なバラマキ策でしかない給付金に走れば国民の失望が一段と高まり、政権は文字通り詰んでしまいます」
トランプ政権との関税問題交渉役に赤沢経済再生担当相を指名した石破総理は、「国難ともいえる事態に日米双方の利益になる幅広い協力のあり方を模索すべく、林官房長官をはじめとする関係大臣と密に連携し、アメリカ側と鋭意、協議を行ってほしい」と指示したという。