減税分を穴埋めする大幅な歳出カット・予算削減策は?

 終わりが見えない物価高騰にトランプ関税ショックは、コロナ禍を上回る「国難」かもしれない。そんな非常事態を乗り切るには従来型の経済対策では無理。失われた30年間で財務省と自公政権が行ってきた政策に見切りを付け、その反対の路線を進むしかないのではないか。

 具体的には5年間なり10年間の時限付きでの消費税減税、食料品は一律税率をゼロにして、その他は5%に引き下げる。ガソリンの暫定税率は廃止する。そしてコメの価格高騰を抑えるためには備蓄米の放出を継続する。同時に農政のあり方を見直し、専業農家、酪農家などへの所得補償政策を打ち出す──。財源は来年度予算以降で大幅な歳出カットを実施するしかないだろう。

 その最有力候補は増強路線をひた走っている防衛費の見直し、削減だ。東アジア情勢の緊迫などを理由に防衛費増強が当たり前のように進められてきたが、もう一度冷静に議論すべきではないか。

 令和7年度の防衛費は8兆7005億円と過去最大に膨れ上がった。今後トランプ政権の増額圧力は必至だが、すんなりと受け入れていたらキリがない。国防総省内には日本の防衛費をGDP比で3%に引き上げるべきと主張する人物もいる。対米追随にも程がある。

 38兆円規模に達している社会保障費の改革も欠かせない。石破首相が執着した社会的弱者の命を削ることになる高額療養費制度の見直しなどではなく、ほかに手を付ける領域がある。

 巨額の金融資産を保有している高齢者の負担割合引き上げ、OTC類似薬〈OTC薬(市販薬)に効果やリスクが近いにもかかわらず医師の処方が必要な薬(湿布など)〉を公的医療保険給付対象外にするなどの改革による予算削減は十分可能なはずだ。

 こうして生まれる財源を、例えば医療・介護従事者約900万人の待遇改善につなげていきたい。2年連続で春闘の回答が5%を超える中、医療従事者の賃上げ状況は厳しい。

 日本医療労働組合連合会によると、2025年春闘で回答のあった181組合のうち135組合が「賃上げしない」との回答だったという。病院経営が厳しさを増す中で、物価高騰が追い打ちをかけ、医療従事者たちの生活を脅かしているのだ。ここを改善していかないと日本の医療が崩壊してしまう。

 21世紀最大の国難に直面しながら、石破首相の頭には従来と同じレベルの経済対策、それも選挙対策のバラマキ給付金しかないのだろうか。一歩間違えば、政権交代の一大政局に進みかねない中、政権与党内部からの突き上げで給付金プラス消費税減税に踏み込むのか。日本の今後のかじ取りを見据えた賢明な決断を期待したいものである。

石破政権は「国難」を乗り切れるのか(写真:共同通信社)

【山田 稔(やまだ・みのる)】
ジャーナリスト。1960年長野県生まれ。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。主に経済、社会、地方関連記事を執筆している。著書は『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』『分煙社会のススメ。』など。最新刊に『60歳からの山と温泉』がある。東洋経済オンラインアワード2021ソーシャルインパクト賞受賞。