中露対米欧の冷戦的対立構造を維持しようとするゼレンスキー氏

 米紙ワシントン・ポスト(3月29日付)によると、米国防総省に配られた「暫定国家防衛戦略指針」は中国の台湾侵攻阻止と国防強化を優先するよう米軍の方向転換を指示する。ドナルド・トランプ米大統領も中国との潜在的な戦争に備え、勝利を収めるビジョンを描いている。

 トランプ氏にとってウクライナ和平交渉は中国との衝突に備えた布石に過ぎない。中国から核大国のロシアを引き離すことで2対1の不利な状況から「三すくみ」の均衡に持ち込もうとしている。欧州をロシアの脅威に対する壁にする意図が透けて見える。

 大国外交の生贄になることを恐れるゼレンスキー氏は捕虜をさらし者にし、中国を怒らせてでも中露対米欧の冷戦的対立構造を維持しようと努める。トランプ氏の貿易戦争で自由貿易の時代が終わりを告げようとする中、地政学上の世界も地殻変動を起こしつつある。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。