若年世代が意識する「貯蓄から逃避」
年代別データで見ると、若年世代における運用意欲の高まりは顕著だ。現時点では2024年の年代別データは未公表だが、NISAがスタートした2014年3月末時点で口座数は半分以上が60代以上に集中していた(図表④)。しかし、2024年9月末時点では60代以上で30%程度にとどまっている。
【図表④】

一方、同じ期間で20代および30代は10%程度から30%近くまで急伸している。シェアトップも、かつての60代および70代から40代および50代にシフトしており、資産運用への関心は明らかに現役世代へ浸透し始めている。
近年の機運を踏まえれば、現役世代の中でも特に20代や30代の若年世代は「慢性的な円高に悩む日本経済」という経験を持ち合わせておらず、「円安インフレに苦しむ日本経済」という実感を強めているはずだ。
その実感が米国株を中心とする海外資産への投資意欲につながり、今回の円安局面に寄与している部分は否定できない。それは「貯蓄から投資」への進展であると同時に、「円建て資産のままではまずい」という防衛意識に根差した「貯蓄から逃避」でもある。
今後の日本経済を担う世代ほど、日本に期待をしていないという国民意識を浮き彫りにするデータとしても、資産運用関連のデータは興味深い内容を含んでいるように思える。
※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2025年3月25日時点の分析です
唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。