中南米に控える強敵のキューバとブラジルはアメリカに従うのか?
「ヤルタ2.0」に従い、アメリカがラテンアメリカの“支配”に乗り出そうとしても、実際はそう簡単にはいかないだろう。
まず、この地域にはキューバやベネズエラ、ニカラグアの反米強硬派“三羽がらす”が存在し、これらを屈服させるのは至難の業と言える。
特にキューバについては、1962年のキューバ危機の際、旧ソ連がキューバに核ミサイルを配備しない代わりに、アメリカはキューバに軍事侵攻しないという密約を交わし、現在のロシアに継承されていると言われる。
またかつてのモンロー主義で、アメリカは多国籍企業や軍事力を駆使してラテンアメリカを半植民地とした。共産革命を警戒して親米右派の軍事政権を積極的に支援し、それらの国々の国民を抑圧し続けた過去を持つ。
こうした体制は冷戦終結まで続き、その反動から現在でもこの地域では反米の左派政権が国民の支持を集める。
さらに南米の地域大国を目指すブラジルが、果たしてアメリカの国家戦略に従うかは未知数だ。
ブラジルは人口約2億1100万人(2023年)、GNI約1兆9000億ドル(約285兆円、2022年)で経済力では世界9位に位置する南米最大の経済大国だ。地下資源や農産物、森林資源も豊富でかなりの産物で自給自足が可能なばかりか、実はいまフランスの協力を得ながら自力で原子力潜水艦の建造に挑み、軍事力も南米一を誇る。
このブラジルが、「ヤルタ2.0」で乗り込んで来たアメリカに服従するとは到底思えない。
これらを考えると、欧米メディアが深読みする「ヤルタ2.0」は、アメリカにとっては中国の封じ込めどころか、「敵に塩を送る」以上の愚策だ。MAGAの達成は遠のき、経済力や世界的な影響力も急速に落とす可能性が高い。
海千山千のプーチン氏と停戦交渉という名の「ビッグ・ディール」を始めたトランプ氏の胸中やいかに。

【深川孝行(ふかがわ・たかゆき)】
昭和37(1962)年9月生まれ、東京下町生まれ、下町育ち。法政大学文学部地理学科卒業後、防衛関連雑誌編集記者を経て、ビジネス雑誌記者(運輸・物流、電機・通信、テーマパーク、エネルギー業界を担当)。副編集長を経験した後、防衛関連雑誌編集長、経済雑誌編集長などを歴任した後、フリーに。現在複数のWebマガジンで国際情勢、安全保障、軍事、エネルギー、物流関連の記事を執筆するほか、ミリタリー誌「丸」(潮書房光人新社)でも連載。2000年に日本大学生産工学部で国際法の非常勤講師。著書に『20世紀の戦争』(朝日ソノラマ/共著)、『データベース戦争の研究Ⅰ/Ⅱ』『湾岸戦争』(以上潮書房光人新社/共著)、『自衛隊のことがマンガで3時間でわかる本』(明日香出版)などがある。