冷戦終結まで続いたアメリカのモンロー主義と棍棒外交
前出のように「ヤルタ2.0」のそれぞれの縄張りは、
・アメリカ:南北米大陸
・ロシア:欧州大陸
・中国:太平洋地域
と想定されている。これはあくまでも予想シナリオで、トランプ氏が断言したことは一度もない。ただし、「アメリカが南北米大陸の支配権強化に乗り出すのでは?」との憶測は、トランプ氏が第2次政権のスタートと同時に次々と放つ、近隣国に対する領土・領域絡みの尊大な要求で現実味を増している。
「メキシコ湾をアメリカ湾に名称変更する」「カナダを51番目の州にする」「パナマ運河を返せ」「グリーンランドを売れ」といった暴言のオンパレードで、「モンロー主義の復活か」と報じるメディアも少なくない。
モンロー主義とは、1820年代にモンロー米大統領が掲げた孤立戦略の一種である。米欧による相互不干渉主義で、米は欧州大陸に、欧州は南北米大陸に、それぞれ干渉・植民地化しないという取り決めだ。
「欧州は南北米大陸への干渉・植民地化しない」とは聞こえがいいが、裏を返せば、アメリカが南北米大陸を支配するということだ。現に19世紀半ば以降、アメリカはこれを実行に移し、ほぼフリーハンド状態でラテンアメリカへの軍事介入を続けている。
最たるものはパナマだ。同国は1903年にコロンビアから分離独立するが、アメリカの巧妙な策略があった。
当時、海軍力増強に注力するアメリカは、大西洋─太平洋間で、軍艦を素早く移動させるルートとして、パナマ地峡に着目。ここに米軍主導で運河を構築し、権益を確保するのが目的だった。同様に20世紀前半には、第2パナマ運河の建設予定地として有力視された中米ニカラグアに米海兵隊を出兵、反米抵抗組織を弾圧し全土を占領している。
こうしてアメリカは、中南米を「裏庭」と称し、反米運動の封殺と秩序維持のため軍事力を行使したため、「棍棒(こんぼう)外交」と揶揄された。これは、穏やかな口調で交渉をしながらも、圧倒的な軍事力をちらつかせて強引に要求を押し通そうとする外交姿勢のことを指す。
第2次大戦後も棍棒外交は続いた。1983年のグレナダ侵攻、1989年のパナマ侵攻は記憶に新しい。当時は東西冷戦真っただ中で、アメリカの軍事介入に対して西側陣営からの批判は低調だったが、反米国家に大軍を送り込んで占領し、その国の元首を問答無用に拘束する行為は「侵略」そのものだ。
最終的にアメリカのモンロー主義は冷戦終結まで続いた。