知識としては知っているニュートンによる万有引力の発見やアインシュタインの相対性理論。だが、それらがどのように発展し、物理学にどのような影響を及ぼしてきたかということまでは、学校では教えてくれない。
『なぜ重力は存在するのか 世界の「解像度」を上げる物理学超入門』(マガジンハウス)を上梓した野村泰紀氏(カリフォルニア大学バークレー校教授)に、ニュートンとリンゴの関係から、光速が持つ不思議、そしてアインシュタインの2つの相対性理論まで、物理学の歴史について話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)
──書籍中「ニュートンは、リンゴが木から地面に落ちるのも、月が地球の周りを回るのも、同じ万有引力が原因であると見抜いた」とありました。これはどういう意味ですか。
野村泰紀氏(以下、野村):ニュートンがリンゴが木から落ちる様子を見て万有引力の存在に気付いた、という話は有名ですよね。
実際は「リンゴのような物体は地球の表面に向かって落ちてくるのに、なぜ月は落ちてこないのか」と疑問を抱いたことが万有引力発見のきっかけだったようです。その疑問に対してニュートンが導き出した答えは、いたってシンプルなものでした。
「月も、地球の表面に向かって落ちてきている」
ニュートンが万有引力のアイディアを思いついた17世紀半ば、「力が働かないと物体はそのまま直進し続ける」ということは、既に知られた現象でした。
地球上では、物体はある程度進むと止まってしまうため、そんなことはありえないと感覚的に思うかもしれません。でも、物体が止まってしまうのは、実は力が働いているため。地球には空気抵抗や摩擦があり、これらが移動する物体を減速させています。
もしこのような力が存在しなければ、物体は直進し続けます。宇宙空間に漂う宇宙船などがそうです。
そして、これは月も同じです。もし月に何も力が働いていないならば、月は地球の周りを回ることなく、真っすぐに飛んでいってしまいます。ではなぜ、月はなくなってしまわないのでしょうか。
月ではイメージが難しいかもしれませんので、地球上でボールを投げることを想像してください。
低速で地面に対して水平に投げ出されたボールは、すぐに地面に落ちてしまいます。これは重力の仕業です。ボールの速度が速くなればなるほど、落ちるまでの距離は長くなります。
ボールが落ちてしまうのは、ボールの軌跡が地面と交わってしまうから。でも、地球は球状なので、地面は実は曲がっています。そこで、ボールの速度をどんどん上げていき、遠くまで飛ぶようにすれば、ある時点でボールの落下幅と球面である地面の下がる幅が一致し、ボールと地面との距離は縮まらなくなります。
その結果、ボールは地面との距離を一定に保ったまま、地球の周りを回り続けることになります。
これが、月に起こっていることです。