最終的に検察は控訴を断念し、袴田巌さんの無罪が確定した(写真:山口フィニート裕朗/アフロ)最終的に検察は控訴を断念し、袴田巌さんの無罪が確定した(写真:山口フィニート裕朗/アフロ)

 1966年6月30日、静岡県の味噌製造会社専務の一家4人が殺害された。味噌製造会社で働いていた袴田巌氏に容疑がかけられ、1980年に死刑が確定した。いわゆる「袴田事件」である。死刑確定から44年となる今年(2024年)、静岡地方裁判所の再審(やり直し裁判)で袴田氏に無罪判決が言い渡された。

 袴田事件だけではない。日本では、免田事件、財田川事件、松山事件など多くの冤罪事件が発生している。なぜ、冤罪事件が起こるのか、冤罪再発防止には何が必要か──。『冤罪 なぜ人は間違えるのか』を上梓した西愛礼(弁護士)に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──西先生が冤罪研究を始めるきっかけとなったプレサンス元社長冤罪事件の概要と、冤罪が起こった背景について教えてください。

西愛礼氏(以下、西):2019年に大阪に拠点を置くマンションデベロッパーの株式会社プレサンスコーポレーション(以下、プレサンス社)代表取締役である山岸忍氏が、業務上横領の容疑で逮捕されました。

 この発端は、ある学校法人の土地の売買を巡る取引の過程で、学校法人側が移転先の土地を購入するためのつなぎの資金として、山岸氏が不動産売買の個人資金18億円を仲介企業に貸与したことです。

 ところが、この18億円は学校法人に渡ることなく学校法人の新理事長個人の懐に入りました。詳細は省きますが、新理事長がこのお金を横領したのです。

 やがて、学校法人の理事会では土地の売買に関するお金が不自然に消えていることが発覚し、新理事長が刑事告発されました。

 ここで、大阪地検特捜部は「山岸氏が新理事長の業務上横領に協力したのではないか」という仮説を導き出し、山岸氏を逮捕するに至りました。

 けれども、この見立てにはかなり無理があります。横領されることをわかっていて個人資金、しかも18億円もの大金を貸す人間が果たしているのでしょうか。しかも、新理事長と山岸氏は全く面識がありませんでした。

 にもかかわらず、大阪地検の検察官は自らの見立ての矛盾を顧みることなく、それに固執し、冤罪を生んでしまいました。