過去の冤罪事件の原因解明を怠っている国

──冤罪を減らすためには、今後どのような工夫が必要だと思いますか。

西:冤罪の問題点は、過去の冤罪事件の原因解明を怠っているために、類似の事件が繰り返し起こっているという点です。

 類似の冤罪事件の再発防止に必要なことは、「冤罪が起きたこと」を批判するだけでは不十分です。過去の冤罪事件の原因や教訓などから学びを得て、それを再発防止策として活かしていかなければなりません。冤罪の原因解明に特化した検証機関の設置が急務です。

 また、法改正や法の運用面の改善も必要です。私は日本弁護士連合会で再審法改正実現本部委員を務めています。

 2024年9月に再審で無罪判決が言い渡された袴田事件が昨今では話題になっています。袴田巌氏は死刑確定後、1981年から静岡地方裁判所に対して再審請求をしていましたが、実際に再審開始が決まったのは2014年のことでした。

 このように、日本では再審請求から再審開始までに長い期間を要するのが大きな問題です。冤罪当事者はその期間、無実の罪で服役しなければならないのです。

 私は、再審請求から再審開始までの過程をより迅速にしていくことが必要不可欠だと考えています。

無罪が確定した袴田巌さんの近影(写真:AP/アフロ)
無罪が確定した袴田巌さんの近影(写真:AP/アフロ)

 また、「過去の冤罪から学ぶ」という取り組みには、私たち法律家だけではなく一般の方々にも参加していただきたいと思っています。

 冤罪は、他人事だと思っている人も多いのではないでしょうか。けれども、決してそんなことはありません。やましいことがなくても、ある日突然、警察から疑いをかけられてしまうこともあるのです。

 冤罪は、「二重の不正義」です。冤罪で逮捕されてしまうこと自体が、一つの不正義です。加えて、それによって真犯人が逃げてしまうことも不正義です。

 まんまと逃げおおせた真犯人は、自分が捕まらないという経験をもとに、高を括って同じような犯罪を繰り返すかもしれません。その被害者に自分がなるかもしれませんし、自分の家族がなるかもしれません。

 冤罪を防ぐということは、法律家だけではなくて国民全体の課題であると認識していただきたいのです。国民全員で、冤罪を学んで再発防止をすること、刑事司法をより良い形に変えていくということが冤罪防止には必要です。

 そのためには、冤罪はどのような事象で、なぜそのような誤りが生じるのかという点を、冤罪や刑事司法に携わっている私たち法律家がきちんと発信していかなければならないと思っています。