大阪地検の検察官はなぜ間違えたのか?

西:この事件で問題視されていることは、検察官が見立てを押し付けたことだけではありません。山岸氏の部下や不動産売買の仲介事業者の社長に対して、机を叩いたり大声を出すなど威圧的な取り調べを行い、「山岸氏は共犯である」という虚偽供述を引き出していたことが後になって明らかになったのです。

 この事件には、私も途中から弁護団に加わりました。最終的に、山岸氏は2021年10月に大阪地方裁判所(以下、大阪地裁)で無罪判決を勝ち取りました。

 2022年3月に、山岸氏と私たちは大阪地裁に国家賠償請求訴訟を提起しました。この過程で、国側に山岸氏の取り調べの録音録画の提出を請求。2024年10月、最高裁判所は、約18時間分の取り調べ映像の提出を国に命じました。

 これは、取り調べの録画録音の提出を最高裁が国に命じた初めての事例です。

 加えて、大阪地検特捜部の捜査で違法な取り調べがあったとして、取り調べを担当した検察官を特別公務員暴行陵虐罪などの罪で刑事告発しましたが、大阪地方検察庁はそれを不起訴にしました。

 そこで私たちは裁判所に検察官を刑事裁判に付するよう求める付審判請求を行ったところ、裁判所がこの請求を認めました。取り調べ中の行為について検察官が刑事裁判に付されるのは、日本では初めてのことです。

──書籍中、冤罪を生むメカニズムについてさまざまな説明がなされていましたが、「バイアス」という言葉が幾度となく登場しました。

西:バイアスは「認知の歪み」とも言われています。人間は、ある出来事に遭遇した際に、現実に即していない歪んだ捉え方をすることがあります。

 バイアスの中でも冤罪と大きく関係があるのは、確証バイアスです。これは、自分の予想や信念に沿う情報ばかりを無意識に集めてしまう人間の特性です。

 例として、推理小説が挙げられます。推理小説では特定の人物がいかにも犯人であるかのような描かれ方をされることがあります。私たちはその人物が犯人であると思い込んで読み進めていきます。

 すると、その人物が犯人であることを裏付けるような描写ばかりが目につくようになります。最終的に真犯人が明らかになり、期待が裏切られるのですが、途中途中で描かれる真犯人の怪しい言動を、私たちは見逃してしまっているのです。

 実際の捜査の現場でも、同じようなことが起こり得ます。警察が、ある人物を犯人として疑ったとき、その人物の「犯人らしい」情報ばかりを収集してしまうことがあるのです。

 確証バイアスの始末が悪いところは、真犯人がいる可能性すら見過ごされてしまうことです。

──バイアス以外にも、冤罪を生む要因として「ヒューリスティックス」が挙げられていました。