なぜ光の速度が自然界で最も速いのか?
──「光の速度は自然界に存在できる最高速度であり、あらゆる物体はこの速度を超えることができない」のはなぜですか。
野村:もちろん、それはあくまでも相対性理論が正しければ、という前提での話です。
物体を光の速度に近付けていくためには、加速しなければなりません。加速して速度が速くなれば、その物体の持つ運動エネルギーが大きくなります。これは、早く動いているものほど、何かに衝突したときに与えるダメージが大きいことなどからも分かると思います。
さて、ここで有名な「E=mc^2」の式が登場します。Eが物体のエネルギー、mが質量、cが光速です。この式は、エネルギーと質量は等価であることを示しています。
つまり、ある物体のエネルギー(E)が増えていくと、その物体はあたかも大きなm(質量)を持つかのように振る舞うのです。すると、大きな力を加えても、その物体はあまり加速しません。
これは、ニュートンの運動方程式「F=ma」から言えます。Fが力、mが物体の質量、aが加速度です。m(質量)が大きくなるほど、a(加速度)を増大させるには、大きなF(力)が必要になる、ということです。
物体の運動エネルギーが高ければ高いほど、すなわち、速度が速いほど、さらに速度を上げるには膨大な力が必要になります。物体を限りなく光速に近い速度まで加速していくと、その力が無限大になってしまうのです。したがって、物体を光速より速い速度にすることは、不可能なのです。
──仮に光速よりも速く移動できる物体があった場合、現在の理論はどこまで破綻するのですか。
野村:特殊相対性理論を、光速を超えるものを扱えるように拡張する必要があるでしょう。特殊相対性理論に基づいた「場の量子論」という理論がありますが、それも修正しなければいけません。
ただ、それにより物理学が数100年前まで巻き戻されるかと言うと、そうではありません。むしろ、前進します。