特殊相対性理論の矛盾を解決したアインシュタイン

野村:1887年、米国の物理学者アルバート・マイケルソンとエドワード・モーリーは、観測者が動いていようがいまいが、光速は常に一定であることを実験で確認しました。特殊相対性理論によれば、この光の速度は自然界での最高速度であり、これを超えることは不可能です。

 光速は、私たちの使っている単位では秒速約30万kmです。ちなみに、太陽と地球は約1億5000万km離れていますので、太陽の光が地球に到達するまで、8分程度かかります。

 ではここで、再び思考実験をしてみましょう。太陽が突然、姿を消したら地球はどうなるでしょうか。

 ニュートンの重力理論を使って考えると、太陽がなくなった瞬間に太陽と地球の間に働く万有引力がなくなるわけですから、地球は即座にまっすぐ飛んでいくことになります。これは、太陽がなくなったという情報を地球は即座に捉えているということです。情報の伝達速度が光速を超えてしまっています。

 つまり、ニュートンの重力理論は特殊相対性理論と矛盾してしまっている。

 ただ、それまでに観測された天体の動きなどがニュートンの重力理論に従うことは知られています。ですから、アインシュタインはニュートンの重力理論を、その成功を保ったまま特殊相対性理論と矛盾しないように変更する必要があったのです。

 これは、逆に言うと、特殊相対性理論を重力が存在する状況を扱えるように拡張する必要があるということです。そのために考え出されたのが一般相対性理論です。

 ここで、一般相対性理論の構造を比喩的に理解するために、時空をトランポリンのような柔らかい面だと考えてみましょう。その上に、重たいボーリングの球をのせます。これが太陽です。ボーリングの球はトランポリンの表面を歪ませます。これが「時空の歪み」です。

 ボーリングの球から少し離れたところでパチンコ玉をはじくと、パチンコ玉はボーリングの球の周りをくるくると回ります。これが地球です。

 さて、ここでトランポリンの上からボーリングの球を取り除いてみましょう。すると、トランポリンのくぼみは、ゆっくりと元の形状に戻っていきます。トランポリンのくぼみがなくなったこと、すなわち、ボーリングの球がなくなったことをパチンコ玉が感知するまでに、タイムラグが生じることがイメージできるかと思います。

 アインシュタインの一般相対性理論では、このトランポリンの歪みが伝わる速度が光速と等しくなります。もし太陽が突然なくなったとしても、地球がその影響を受けるには約8分かかるということです。

 このように、一般相対性理論によれば、物体は周囲の時空を歪めます。そして、その時空を進む物体は、その場所での時空の歪みを反映した運動をすることになります。アインシュタインは、このような新たな重力理論を、ニュートン重力のそれまでの成功を損なわずに構築することに成功したのです。