目からウロコの特殊相対性理論
野村:特殊相対性理論は、観測者と別の観測者が停止しているか、あるいは等速で運動している「特殊」な状況にのみ使える理論です。より正確に言えば、そのような座標系だけを扱える理論体系です。
けれども、重力を記述しようとすれば、加速する観測者を扱う必要がでてきます。これは、アインシュタインが見抜いたように、重力と加速する観測者というのが本質的に同じ現象だからです。
次のような思考実験をしてみます。
あなたは、手にリンゴを持った状態でエレベーターに乗っています。エレベーターが止まっているとき、リンゴを手から離すとどうなるでしょうか。当然のことながら、床に落ちるでしょう。これは重力の影響です。
次に、エレベーターを無重力の宇宙に持っていくとします。この状態でリンゴを手から離してみましょう。無重力なので、リンゴはぷかぷかと宙に浮くことでしょう。
では、無重力の宇宙で、エレベーターを上方向に向かって加速させることにします。この状態でリンゴを手から離すとどうなるでしょうか。リンゴは、電車が急発進したときのように「慣性力」を感じて、床に向かって落ちていきます。
アインシュタインは、最初のエレベーターでリンゴが落ちた現象と、無重力の宇宙で上に向かってエレベーターを加速させた時にリンゴが落ちた現象の二つが原理的に同じものであることに気付きました。
特殊相対性理論では、重力という現象を扱うことはできません。アインシュタインは1905年に特殊相対性理論を発表しましたが、その後、約10年の歳月をかけて、特殊相対性理論を拡張し、加速する座標系、つまり重力を扱えるようにしました。これが、一般相対性理論です。
──なぜ、10年かけてまで一般相対性理論をつくり上げる必要があったのですか。
野村:それは、光の速度と密接な関係があります。