少子化を生物学的にみると

 2024年の日本人の出生数が初めて70万人を割る見通しで、前年比5.8%減の68.5万人になるという。

 1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率も1.15を割り込む見込みのようだ。

 少子化は、生物学的に見れば極めて異常な事態である。

 19世紀半ばに英国の生物学者チャールズ・ダーウィンが、突然変異と自然淘汰に基づく生物の進化論を唱えて以来、生物の様々な行動や生態は、子孫をできるだけ多く残すためにある、という考えが今も広く世界に定着している。

 また、動物行動学者で生物学者のリチャード・ドーキンスは、あらゆる生物は遺伝子が自己複製するために必要な「生存機械」であるとしている。

 すなわち、餌をとる、縄張りを防衛する、捕食者から身を守る、交尾する、子育てをするといった行動は、すべて自分の遺伝子をできるだけ多く次世代に残すことに結びついているというのである。

 だが、そうなると私たちが今、直面している少子化というのは、「生物の進化に逆行する現象」であり、「ヒトの生物としての存在理由に反している」と、いうことにはならないか。

 少子化には昨今の非婚化、晩婚化および結婚している女性の出生率低下などが要因ともいわれる。

 だが、生物の原則である子供を産み育てる行為は、人間においては本能としてではなく、生後に習得する社会習慣、すなわち文化として継承されてきた側面もあるようだ。

 また、社会環境においては、近年の働き方の多様化や、将来の見通しがたちにくい非正規雇用の増加もあろう。

 結婚して子供を産み育てる生き方や楽しみよりも、個人の自由を優先する価値観の変化もある。

 男女の役割分担が、家族の形成によって仕事と育児・家事という、かつての線引きが曖昧になるなど、子供を産み育てる環境が一段と難しくなってきている。

 そうした少子化が加速する要因は多くあり、政府が主導する異次元の少子化対策だけでは解決しないだろう。