地球への輸送を待っている火星の土壌サンプル

小林:実際に火星に着陸して生命探査を行ったのは、1970年代の米航空宇宙局(NASA)によるヴァイキング計画でした。

 1976年は、米国建国200周年となる記念すべき年。米国の威信をかけ、その年に何が何でも火星探査を実現したいということで、1975年に2機の探査機・ヴァイキング1号と2号が打ち上げられました。

 ヴァイキング1号は1976年7月20日に、同2号は9月3日に、無事、火星に着陸しました。しかし、残念なことに、ヴァイキング1号、2号は火星に生命はおろかその痕跡を見つけることはできませんでした。その原因は、圧倒的な準備不足だと考えられます。

「建国200周年に間に合わせたい」という米政府の意向により、十分な下調べもないまま両機の着陸地点を決定せざるを得なかったのです。

 この結果は、火星の生命探査にトラウマを植え付けてしまいました。

 ただ、ヴァイキング計画の反省を活かし、ここ20年程の火星探査は、生命がどこにいるか、ないしはいた可能性が高いかをきちんと予測してから探査機を送り込むものに変化しました。

 生命がいる、あるいはいた可能性が高い場所となると、やはり水があったほうがいい。そこで、NASAは火星の「生命探査」の前に、まずは「水の探査」をすることにしました。

 2008年には、火星探査機フェニックスが火星の北極付近の表層すぐ下に、氷を発見しました。

 水の次は有機物です。2012年に火星に到着した探査機キュリオシティは、見事、火星で有機物を発見することに成功しました。

 そして次なる目標は、長年切望されてきた火星から地球へのサンプルリターンです。2020年7月20日に打ち上げられた火星探査機パーサヴィアランスは、翌年の2月18日に火星に着陸しました。

 パーサヴィアランスは2023年7月には、ドリルで岩石を削ったサンプルを1本目のサンプルチューブに格納。2024年10月現在、20本程度のサンプルチューブが地球への輸送を待っている状態です。

 どのようにサンプルを地球に持ち帰るのかは、現在、検討が進められています。NASAは「2030年代中には火星からのサンプルリターンを成功させる」という目標を掲げています。

 欧州でも欧州宇宙機関(ESA)が中心となり火星生命探査が行われてきました。ただ、ESAの方針はNASAとは少し異なります。