今崎最高裁長官が関わってきた裁判は

 6人のうち、最高裁長官でもある今崎幸彦氏は、冤罪が疑われている「名張毒ぶどう酒事件」の第10 次再審請求審特別抗告審で、請求棄却、つまり再審を認めない多数意見を支持しました。また、事実上同性婚の関係にある者に対し犯罪被害者給付金の支給が認められるかが争われた訴訟の判決で、「同性パートナーは犯給法の『犯罪被害者の配偶者』に該当しない」との反対意見を示しました。

 今崎氏はまた、トランスジェンダー女性のトイレ使用制限に関する判決にも関わっています。この裁判は、戸籍上の性別を変更していないことを理由に職場で女性用トイレの使用制限などをされるのは違法として、経済産業省の女性職員が国に処遇改善などを求めたもの。その上告審は最高裁の第三小法廷(今崎裁判長)に係属し、同小法廷は2023年7月、トイレ使用制限は「違法」としました。使用制限を「適法」とした東京高裁の判決をひっくり返したのです。

 今回の審査対象6人のうち、この裁判に関わったのは今崎氏のみ。今崎氏は、トイレの使用制限を「違法」とした上で、次のような補足意見を述べました。

「トランスジェンダーの人々が、社会生活の様々な場面において自認する性にふさわしい扱いを求めることは、ごく自然かつ切実な欲求であり、それをどのように実現させていくかは、今や社会全体で議論されるべき課題といってよい。(職場の施設管理者などは)トランスジェンダーの人々の置かれた立場に十分に配慮し、真摯に調整を尽くすべき責務があることが浮き彫りになった」

 今回の審査対象6人のうち、平木氏、石兼氏、中村氏の3人はいずれも2024年度に就任しています。最高裁の裁判官として活動した期間は1カ月〜7カ月程度。関わった裁判もそう多くありません。それでも「公報」や報道を参考にしながら、最近の最高裁判決を振り返ったり、6人の関わりをネットで調べたりしていると、いまの日本が抱える数々の問題と争点が浮き彫りになって迫ってきます。

 衆院選の投票先選びと併せて、落ち着いて社会の出来事を考える滅多にない時間になるかもしれません。

フロントラインプレス
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