注目される2025年度予算案の内容

 労働党政権は10月30日に2025年度の予算案を発表する。これに先立ちスターマー首相は、前任の保守党政権の下で財政が予想以上に悪化したとして、大規模な増税を行うと発表している。

 スターマー首相は不人気な政策の責任を保守党に押し付けたわけだが、2010年に労働党から政権を奪った当時の保守党政権も同様の手法を用いている。

 この予算案の発表に伴い、エネルギー政策についてもより具体化な内容が明らかになると考えられる。

 GBEの下で推進される英国のエネルギー政策が、当初の労働党が示していたようにあくまで再エネと原発の活用に力点を置くのか、あるいはガス火力の活用にも道を開く現実的な方向性に修正がなされるのか、注目されるところである。

 ところで、G7は2035年までに二酸化炭素(CO2)の排出抑制が不十分な石炭火力発電の全廃で国際合意に達した。一方で、対策が十分であれば石炭火力は容認されるし、時流が変わり見直しがなされる可能性もある。

 日本の場合、世界的にも石炭火力発電のCO2排出抑制技術が優れているため、この手段を捨てることは不合理である。

 英国の場合、9月末で脱石炭火力を実現したうえに、その過程で国内の炭鉱も閉鎖したため、その再稼働は容易でない。ガス火力こそが残された現実的な手段である中で、労働党政権は現実的な折り合いをつけることができるだろうか。

 理念に突き進むようなら、英国のエネルギー危機は構造的な性格を強く帯びていくことになるだろう。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。