石油・ガスの新たな投資を抑制する一方、再エネの普及を重視する英国のスターマ首相(写真:ロイター/アフロ)石油・ガスの新たな投資を抑制する一方、再エネの普及を重視する英国のスターマー首相(写真:ロイター/アフロ)

 9月末、英国は国内に残った最後の石炭火力発電所の運転を終了した。G7の中で最も速く脱石炭火力を実現した格好だ。もっとも、英国のエネルギー高は深刻で、石炭火力に変わる電力源を確保しなければならない。英労働党は再エネと原子力に活路を求めているが、すんなり行くかどうかは微妙だ。(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 英国は9月30日、国内に残った最後の石炭火力発電所の運転を終了した。運転を終了したのは、エネルギー大手ユニパーがイングランド中東部ノッティンガムシャー州で運営するラトクリフ・オン・ソア発電所だ。

 いわゆる先進7カ国(G7)は、脱炭素の潮流の中で脱石炭火力を目指しているが、英国が一番乗りでそれを実現したことになる。

 英国では2010年代前半まで、石炭火力はガス火力に次ぐ電力源であり、総発電量の3割程を占めていた(図表1)。

【図表1 英国の電源構成】

(出所)英国統計局(ONS)(出所)英国統計局(ONS)

 しかし脱炭素化の流れを反映して、2015年12月のケリングリー炭鉱の閉鎖を皮切りに国内にあった炭鉱の閉鎖を進めるとともに、石炭火力の削減に取り組んできた。代わりに英国は、再エネやバイオマスの普及を進めてきた。

 英国は2021年にスコットランドのグラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)のホスト国を務めたが、その際に当時のボリス・ジョンソン首相が、石炭火力の「段階的な廃止」を世界に強く訴えたことは記憶に新しい。

 ただ実際は、新興国の意向が反映され、合意文書での表現は「段階的な削減」にとどまった。

 英国の電源構成に占める石炭火力発電の割合は2021年時点で2.2%に過ぎず、脱石炭火力は時間の問題だった。したがって、COP26でジョンソン元首相が石炭火力の廃止を訴えた時点で、英国は脱石炭火力をほぼ実現していたことになる。

 英国は自らの勝利が見込まれるように、グローバルなゲームのルールを誘導していたわけである。

 このように、規制をグローバルに輸出して自らの国際社会での影響力を高めようとする英国の外交アプローチは、英国が袂を分かった欧州連合(EU)にも共通するところである。

 老練とも言えるが、一方で近年は、その規範や理念が現実から乖離していることが多く、経済力をつけてきた新興国の意向にも反するため、効力を失いつつある。