マクロン大統領の任期は2027年まで残っているが、フランス国内、EUともに影響力の低下は必至だ(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)マクロン大統領の任期は2027年まで残っているが、フランス国内、EUともに影響力の低下は必至だ(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
  • 6月上旬に実施された欧州議会選では、中道右派から極右会派まで右派勢力が軒並み議席を増やした。
  • 欧州の右派回帰は加盟国にも飛び火。影響力低下が必至のフランス・マクロン大統領は下院を解散した。
  • EUは環境規制などの議論をリードすることで国際社会での影響力行使を図ってきたが、そうした「ブリュッセル効果」もこれからは限定的だ。

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 欧州連合(EU)では、閣僚理事会とともに立法機能を担う欧州議会の総選挙が6月6日から9日に行われた。

 選挙結果はおおむね事前の予想通りで、中道右派から極右会派まで右派勢力が軒並み議席を積み増すことになり、欧州議会の「右派回帰」が鮮明となった。反面で、環境会派(G/EFA)や中道会派(Renew)が議席を大きく減らした。

 選挙前の世論調査によると、有権者の主な関心は、景気停滞や物価高騰、所得格差といった経済問題や移民問題に移っていた。言い換えれば、環境対策への関心が後退したことで、環境会派は議席を失うことがほぼ確定的な情勢だった。環境対策の強化以外の主張に乏しい環境会派は、有権者の関心の移ろいに応えることができなかったのだ。

 中道会派も議席を大きく減らしたが、これはフランスのエマニュエル・マクロン大統領が名誉党首を務める同国の中道政党「再生」(Renaissance)の不人気によるところが大きい。EUのリーダーを自負するマクロン大統領だが、フランス国民の評価は芳しくない。一方で人気を集めたのは、マリーヌ・ル・ペン氏を擁する国民連合(RN)だった。

ルペン氏率いる右派政党、国民連合(RN)は欧州議会選で大勝した(写真:AP/アフロ)ル・ペン氏率いる右派政党、国民連合(RN)は欧州議会選で大勝した(写真:AP/アフロ)

 RNの前身は、マリーヌ・ル・ペン氏の父親であるジャン=マリー・ル・ペンが結成した極右政党・国民戦線(FN)である。2011年にFNを引き継いだマリーヌ・ル・ペン氏は、2021年に党首を辞任するまで党の穏健化に努めた。この間、2017年と2022年の大統領選に出馬したが、いずれもマクロン大統領との決選投票で敗れている。

 そのRNの今回の欧州議会選における得票率は、フランス全体の3分の1に達し、与党連合の約2倍となった。こうした状況を受けてマクロン大統領は、有権者の審判を仰ぐとして、下院を解散した。フランスの総選挙は条件付きの2回投票制で行われるため、1回目の投票が6月30日に、決選投票が7月7日に実施される。

 今回の欧州議会選の結果は、マクロン大統領の求心力の低下を端的に物語るものだったといえるだろう。