欧州が影響力を行使した環境規制も風前の灯火

 欧州議会選で示された民意を受けて、欧州委員会を含めたEU執行部は、今後、経済問題や移民問題に注力せざるを得なくなる。こうした中で、EU執行部が戦略的に進めてきた規制の輸出と、それを通じた国際社会での政治的な影響力の行使は難しくなるだろう。いわゆる「ブリュッセル効果」は、その力を弱めることになると考えられる。

 ここ数年のEUは、袂を分かった英国とともに、国際社会で環境規制の強化をリードしてきた。年に1回開催される気候変動枠組条約締約国会議(COP)の場を通じて、化石燃料の利用削減や新車の早期ZEV化を声高に主張してきたことは、その端的な例である。環境対策の議論をリードすることで、グローバルな影響力の行使を試みたわけだ。

 しかしながら、そうしたブリュッセル効果の発動を狙ってきたEUの執行部を、EU各国の有権者が必ずしも評価していないことを、今回の欧州議会選の結果は鮮やかに描き出した。そうした状況でEUがいくら強いメッセージを発したところで、日本を含めた国際社会がそれを受け止めることなど、望みがたいというところではないだろうか。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

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【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)がある。