公共投資が不足しているドイツ。写真はショルツ首相(写真:Bernd Elmenthaler/Future-Image via ZUMA Press/共同通信イメージズ「ZUMA Press」)
公共投資が不足しているドイツ。写真はショルツ首相(写真:Bernd Elmenthaler/Future-Image via ZUMA Press/共同通信イメージズ)
  • IMFは年一回の「4条協議」で、ドイツに公共投資の拡大と債務ブレーキの緩和を勧告した。
  • 債務ブレーキとは、年間の赤字国債発行額を名目GDPの0.35%にまで抑制する規定のこと。緊縮財政を重視するのはハイパーインフレに苦しんだ経験ゆえだ。
  • だが、インフラの老朽化などに伴う供給不足はインフレの要因。長期的にはIMFの勧告に理があるのではないか。

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 国際通貨基金(IMF)は年一回、加盟国の経済や金融に関する評価を行う。IMF協定の第4条に基づくことから、これは「4条協議」と呼ばれる。

 日本の場合、4条協議では、常に増税が勧告される。日本の肥大した公的債務残高に鑑みれば、これは当然の勧告である。とはいえ、あくまでこれは勧告であり、履行の義務はもちろんない。

 そのIMFが5月28日、ドイツの「4条協議」の結果を公表した。そこでIMFは、ドイツにもっと公共投資を増やすとともに、それが可能になるように、憲法に規定されている「債務ブレーキ」を緩和するよう勧告を行ったことが話題となっている。

 IMFはドイツにもっと財政を拡張させるべきだと、日本への勧告と真逆の勧告を行ったわけだ。

 ここで、ドイツの公共投資の規模を確認してみたい。ドイツの2023年の公共投資の対GDP比率は2.63%と、2年連続で上昇した(図表)。

 2010年代中頃に2%程度まで落ち込んだことに比べると、ドイツの公共投資の水準は相応に上昇している。しかし3%を超えていた1990年代前半に比べると、建設投資を中心に水準は低いままだ。

【図表 ドイツの公共投資】

(出所)ドイツ連邦統計局

 1990年代前半は、旧東ドイツで開発が急ピッチで進んだ時期。90年12月の「ドイツ再統一」を受けて、発展が遅れた旧東ドイツの開発に、ドイツ政府が注力していた頃である。それから30年が経過したが、一般的に建築循環は20年前後とされるため、90年代前半に行われた公共投資は更新の時期を迎えている。

 つまり、もっと公共投資を増やすべきだというよりも、増やさざるを得ない状況に、ドイツは置かれている。

 その他にも、ドイツは歳出を増やさざるを得ない状況にある。ロシアのウクライナ侵攻を受けて膨張した国防費はその最たる例であり、今年の防衛予算は717億ユーロに達し、32年ぶりに名目GDPの2%の大台に乗っている。