上脇教授が疑っている安倍元首相に対する検察の“忖度”

──2019年の河井克行・河井安里夫妻の買収事件の時は、検察が家宅捜索など強制捜査に踏み切りましたが、安倍首相(当時)に対しては任意の取り調べに留まったということが本書でも言及されています。検察はどのように捜査するターゲットを決めていると思われますか。

上脇:検察庁の内部の話なので、決定的なお話はできませんが、恐らく政治的な判断・忖度が働いていると私は見ています。

 2019年は河井夫妻に捜査が入りましたが、安倍氏や官房長官だった菅氏には捜査が入りませんでした。その背景には、内閣官房報償費(機密費)の存在があると私はにらんでいます。

 自民党本部は公職の候補者に10億円から20億円あまり政策活動費の名目で寄附しており、2012年に安倍氏は2億5000万円を本部から受け取っています。ところが、2013年以降は受け取っていません。

 一方、首相や官房長官のところには機密費があり、官房報償費の使途には政府も検察も関知しないことになっています。

 2013年7月の参議院選挙で、安倍氏が官房機密費から候補者に100万円渡したという元官房長官の証言を中国新聞がスクープしています。

 自民党本部からは幹事長を中心にカネが配られていますが、現職の総理と官房長官は官房機密費で裏金が作れます。つまり、安倍氏は2013年以降、政党本部からカネをもらわずに菅氏から受け取っていた可能性があるということです。

 そこを家宅捜索などすれば、とんでもない話になってしまいます。官房機密費は使途を公開しないことになっているのに、様々な使途が出てきてしまう可能性が高い。だから、安倍氏や菅氏を家宅捜索しなかったのではないかと私は疑っています。

「裏金を想起させる」との指摘も出た自民党総裁選のポスター(プロレス風)。中央には安倍元首相、脇を固める田中角栄氏に小泉純一郎氏。なぜか現職の岸田首相の扱いは小さい(写真:共同通信社)「裏金を想起させる」との指摘も出た自民党総裁選のポスター(プロレス風)。中央には安倍元首相、脇を固める田中角栄氏に小泉純一郎氏。なぜか現職の岸田首相と菅義偉前首相の扱いは小さい(写真:共同通信社)

──政治資金規正法の改正には「連座制」の導入が必要だと書かれています。政治とカネの問題を受けて、国会でも連座制が議論になりました。また「会計責任者の選任及び監督の義務」を政治家に課して、破った場合は罰金を課すという条文に関しても言及されています。