上脇教授が首をかしげる特捜部の見解

上脇:各派閥の政治団体は、所属の国会議員に政治資金パーティーのパーティー券を売る枚数のノルマを課しました。ただ、ノルマを課すだけだとノルマをちゃんと達成するかどうかが分からないので、ノルマを超えた売り上げ部分は売った議員にあげることにした。つまり、キックバックです。

 この時に、どうせキックバックを受けるなら、最初から派閥に届け出ないで「超過部分はもらっちゃおう」と考える議員も出ました。これが「中抜き」と呼ばれるやり方です。私は「持ち逃げ」という言い方のほうが適切だと言ってきました。

 ここからが私の見立てです。

 派閥は政党ではなく政治団体なので、公職の候補者、つまり議員には寄附できません。その中で、派閥のカネを管理している者は、派閥から議員に寄附する仕組みを考える上で、政党による議員への寄附を真似たのだと思います。

 もちろん、普通に寄附すれば違法になるため、キックバックや中抜きを収入から除外して書きません。すなわち、そのようにして事実上の裏金を作り、議員に寄附したのです。受け取るのも、選挙区支部や資金管理団体ではなく議員個人です。

 収支報告制度がないからもらってそれで終わり。中には自分の懐に入れて脱税している人もいる。私はそう考えました。

──特捜部の見解は異なるのですか?

上脇:特捜部と派閥の政治団体はどうもそう捉えていなくて、「キックバックを受け取ったのは個人ではなく、選挙区支部や資金管理団体だった」というストーリーにしています。こうすると、会計責任者の責任にすることができます。

 私の見立てでは、受け取ったのは政治家なので政治家は逃げられません。周りのスタッフのせいにはできない。だから、検察が起訴するしかない。仮に起訴しなくても起訴猶予になるはずです。でも、受け取ったのを個人ではないとしたので、会計責任者のせいにして多くの政治家は逃げた。

 特捜部の処理がおかしいと思うのは、起訴されたのはキックバックの不記載額が5年間で4000万円以上の人だけだったということです。池田佳隆衆院議員、大野泰正参院議員、谷川弥一衆院議員など3人がこれにあたります。

 私が告発しても4000万円以下は何人も不起訴扱いになりました。不起訴の理由を見ると、全員「嫌疑不十分」となっています。

 でも、4000万円以上か以下かで起訴するかどうかを決めたのであれば、4000万円以下だった人でも起訴猶予でなければおかしいですよね。金額が多い人は起訴できる証拠が見つかり、それ以下の人には証拠がなかったなんておかしいと思います。

 また金額に加えて、その議員がどんな役職かも考慮されている印象があります。役員クラスは起訴されていないのです。「特捜部は最初から金額と人で起訴する相手を決めていたのではないか」と思えてきます。捜査を尽くしていません。

 ただ、今ここに一人例外として出てきたのが堀井学前衆議院議員です。彼は総額で4000万円以下でしたが、裏金を違法な支出に当てていたため、公職選挙法違反と政治資金規正法違反で東京地検特捜部から略式起訴されました。