ソウル一点集中

 一時鎮静化していた不動産価格が、ここへきて再びかなりの勢いで上がり始めているのだ。

 今回の上昇の特徴は「ソウル一点集中」だ。

 地方都市では新規分譲の売れ残りが続出する一方で、高額のソウルのアパートが大人気なのだ。

 ソウルの人気地域のアパートは、20億ウォン、30億ウォンを超える物件も少なくない。

 それどころか、ここ2、3か月の間に、273平方メートルの物件が220億ウォン(龍山=ヨンサン=区)、84平方メートルの物件が50億ウォン(瑞草区)で売買が成立したというような記事が韓国メディアで頻繁に報じられる。

 こうした動きがさらに購買欲を刺激するのだ。高額物件が人気になると、住宅ローンなど家計債務が大きく膨らむことになる。

 景気が良くない時期の債務の拡大は危険信号だ。高額不動産に資金が集まると、消費を圧迫しかねない。

 どうして今になってまたソウルのアパート価格が上昇しているのか。

 建設業従事者の人手不足などで、ソウルのアパートでは新規販売が減少している。供給が足りないのだ。

 一方で、金利が1年半以上も「凍結」になっており、「利下げ」が待ったなしになっていることだ。

 地方やソウル郊外からソウルの人気地域への転入を求める流れは変わらない。物件供給が少ないため、購買意欲をかきたてる。

 利下げになるのなら多少の無理をしても買いたいと思うのだ。

 韓銀の金利政策の目的は、まずは物価対策、ついで金融システムの安定だ。不動産価格の上昇は、頭の痛い問題なのだ。

 李昌鏞総裁は8月22日の記者会見で苦しい胸の内をこう話した。

「内需の不振に対しては時間をかけながら対応できるが、不動産と家計負債による金融安定性に対する危険信号は今対応しておかないとさらに危険度が大きくなる可能性が高いと判断した」

「今の状況では韓銀が金利を急速に引き下げるとか、流動性を過剰に供給して不動産心理を刺激するような間違いをおかしてはならない」

 物価が落ち着いたと思ったら、今度は不動産なのだ。では、韓銀は今後どう動くのか。

 ジェローム・パウエルFRB議長が8月23日の演説で「政策を調整すべき時期が来た」と述べ、て9月に4年半ぶりに利下げすることが確実になった。

 米韓の政策金利は最大2%の差がある。金利差はウォンの対ドルレートに直結する要因だ。

 輸出立国の韓国にとって、米韓金利差が縮小することによるウォン高は好ましくない。

 韓国の産業界も金融界も、さらに政府も、「今度こそは利下げを」という声で一致している。

 それほどまでに景気の先行きに明るい兆しが見えないのだ。韓銀も次回の金融通貨委員会で追随利下げする可能性が高い。